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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第2節 ~ 『カフェ・ライトール』での出来事 その2 ~ [球体関節人形製作]


 トーレは、彼女があまり花を見ずに花束を置いたことで、少々残念な気持ちになったが、あまりその気持ちを出さずに、こちらも笑顔を見せた。

 キャサリーンはトーレの心の動きを知ってか知らずか、早速に、右手を振って先ほどのフロア係の若い男を呼んだ。

「メニューをどうぞ」
 フロア係の男はまずキャサリーンに、そしてトーレに黒い小さなメニューの冊子を手渡した。

(うっ、値段高い...)
 トーレはメニューの中を見て、一番値段が安いブレンドコーヒーでさえ7500リラで、アイスコーヒーが8000リラであることに目を丸くした。

「それじゃ、私はいつものレモンスカッシュで...トーレさんは何にする?」
 屈託なくキャサリーンが注文したので、トーレも続いて、

「あ、じゃあアイスコーヒーで」
 と注文し、メニューでレモンスカッシュが9000リラであることを確認した。

(合わせて17000リラ...それとチップ...お金、結構かかるな...)

 キャサリーンはテーブルに両肘を付き、両手の指を顎の下で交差させ、正面からトーレを見据えた。
「トーレさん。早速、本題なんだけど?」

「あ、はい」
 あまり取り付く島のないキャサリーンの話し方に、トーレは少々焦り気味だった。

「うちの店の看板にあなたが描いた絵...素晴らしい出来栄えだったわ」

 キャサリーンの誉め言葉に、さすがにトーレは悪い気はせず、

「あ、いえ、頑張った甲斐がありました」

「船乗りの男の絵は誰かモデルはいるの?」

「ええ、映画俳優のマレコ・ボーチさんを参考にしました」

「彼の横にいる女性のモデルなんだけど...もしかして...」
 キャサリーンはちょっと上目遣いにトーレを見やった。

 トーレは恥ずかしかったが、思い切って思いを伝えた。
「あ、はい...実は、キャサリーンさん。あなたなんです!」

「あ...やっぱり、そうなんだ...もしかして、私に好意があるのかな?」

「あ、そ、そうです」

(いい流れになっているな)とトーレが思っている矢先、キャサリーンは話を別の展開に持っていった。

「じゃあ...その好意に甘えさせてもらおうかな...えーと、もう、来るはずだけど?」
 キャサリーンは店内の方を見ながらそう言った。

(え?!誰かほかに打ち合わせに来る?)
 トーレは話の流れが急に変わってきたことに不安を覚えた。

 すると、いきなり店内から屈託のない青年の声が響いてきた。
「あー、キャサリーン! 待たせて、ごめん」

 キャサリーンが半分立ち上がり手を振ったので、トーレも思わず半分立ち上がり後ろを向くと、そこには、ブランド物の白いスラックスとジャケット、白いエナメルシューズを身に着けた若い男が手に大きな花束を持って二人の座るテーブルに近づいて来たが、その途中で、フロア係の男に飲み物を注文した。


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しばらくお休みしていました [球体関節人形製作]

 こんにちは、こんばんは、お久しぶりです。
 てぃねこです。
 どうも物語の更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。
 ちょっと、2つの病気にかかってしまい、病院の検査等に行くことが多く、
 具合が悪かったために手が回りませんでした。ごめんなさい。
・・・
 また、今週の金曜日3月27日から更新を再開しますので、
 よろしくお願いします。
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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第2節 ~ 『カフェ・ライトール』での出来事 その1 ~ [球体関節人形製作]

 バルコニーの中で最も見晴らしの良い席は、高価な四角いチーク材のテーブルと四つの椅子席であったが、トーレは海が正面に見え、かつ店の屋内の方に背を向けた位置の椅子に座った。
 そしてキャサリーンに渡す花束を道路側の右手の椅子の上に置き、キャサリーンには自分の左側に座ってもらったらいいなと思いつつ待っていた。

 トーレはそれから少しの間、いろいろと空想を巡らせつつ、穏やかな5月の青い海を見ながらキャサリーンの登場を待っていた。

 トーレが父の形見である懐中時計を背広の懐から取り出すと10時5分を指していた。

(女の子だから、いろいろと時間がかかるんだろうな)

 トーレがそんなことを考えていると、自分の背後の店内の出入り口から先ほどのフロア係の若い男の声が聞こえた。
「あちらの席でございます。キャサリーン様」

 トーレが椅子から立ち上がり後ろを向くと、そこには圧倒されるほど美しいキャサリーンの姿があった。
「あら、トーレさん。早かったのね?」

 キャサリーンは、大きく開いた胸元と、キャメル色のベルトがアクセントの、肩ひもの付いた真っ白なワンピースを着ており、金と銀があしらわれた白いサンダルで優雅に歩を進めてきた。

 そして、流れるような濃いブラウンの長い髪の上に、薄い小麦色の上品な形のストローハットを被り、ハットにはシックな黒いリボンが巻かれていた。

 彼女は歳がトーレの1つ上の20歳で、去年の9月に5年間の高校を卒業し、首都レーマにある大学に通っており、普段は大学近くのアパートで暮らしている。

 そして、今回は、週末に向けて休みを取って地元に戻ってきているのだと、金曜の夕方に言っていたことをトーレは思い出していた。

「あ、おはようございます。キャサリーンさん...あの、これは、お店の新装開店のお祝いです!」
 トーレは右側の椅子の上から花束を取り上げると、キャサリーンに差し出した。
 
「あら、どうもありがとう。トーレさん」
 キャサリーンはブラウンの切れ長の目を少し細め笑顔を作ると、花束を受け取り颯爽とトーレの正面の椅子に周ったので、トーレはあわてて正面の椅子を引き、キャサリーンは優雅に椅子に腰を掛けた。

 彼女は花束が先ほどまで置かれていたトーレの右側の椅子の上に、受け取った花束を置いた。


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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節~ 野に咲く花 その4 ~ [球体関節人形製作]

「あー、そこの瓶の花だけど、アンゲラが持ってきたのかい?」

「...ええ、今朝、来るときに海の見える丘の道の脇に咲いていて、綺麗だったから店に飾ろうと持ってきたの?、、、それが何か?」

「いや...綺麗な花だなーと思って...」

 トーレの言葉にアンゲラは少し顔を赤らめた。

「花屋で売っている花は確かに形も整っていて綺麗だけど...」

 アンゲラはモップを左肩にもたれさせて、両手の指先をちょっと絡めながらトーレを見た。

「野に咲く花も綺麗ですよね?」

「ああ、そうだね。何だか元気で、野性味があって、生き生きとしているね!」

 トーレの言葉にアンゲラは少しだけ複雑な表情をしたが、すぐに微笑み元気に言葉を返した。

「野性味...そうですよね!野に咲く花ですものね」

「あ...そろそろ、行かないと。打合せに遅れたら失礼だからね」
 トーレは厨房の入り口の上に取り付けられている古い柱時計を見て言った。

「...そうですね。いってらっしゃい!」
 アンゲラは精一杯の笑顔でトーレを送り出した。

************

 今は9時50分、約束の10時まで後10分だが、『カフェ・ライトール』に着いたトーレはその店構えを見て少し気後れしてしまった。

「うわー。やっぱり値段高そうだな...」

 豪邸のように立派な不等辺三角形の大きな屋根を持った店で、海に面した側に張り出しているバルコニーも広く、全体が真っ白な塗装で統一されていた。

 少しだけ金色があしらわれている大きなガラスのはまった入口のドアを開くと、とても上品なベルがカランカランと小さく鳴った。

「いらっしゃいませ」

 真っ白なシャツに黒いスラックスと革靴で、左手に丸い銀のトレイと白いナプキンを抱えた若い男のフロア係が微笑とともにトーレを出迎えた。

「えー、あのー、10時にキャサリーンさんと待ち合わせているトーレといいます」
 トーレはドギマギしながら言った。

「キャサリーン様から、その件は伺っています。それではご案内しますので、こちらへ」
 トーレはフロア係の男に付いて行き、バルコニーの中で最も見晴らしの良い席に案内された。
「それでは、しばらくお待ちください」

 そう言い残してフロア係の男は屋内の店の中に去っていった。

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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節~ 野に咲く花 その3 ~ [球体関節人形製作]

 二輪の花の影から現れた小人は白いミニスカートのドレスを着ており、肌は白く、髪は白だがわずかに青みがかっていて、妖精のように綺麗な女の子で、背丈は5cmくらいであった。

 そして、器用に右手で黄色い花の茎につかまりながら、ガラスの小瓶の縁をゆっくりと歩いてトーレの目の前に姿を現した。

 とても非現実的な状況ではあったが、妖精の女の子の可愛らしさのためか恐怖は微塵も感じることは無く、トーレはその小さな女の子をジィッと見つめた。

 すると女の子は、これからトーレが行く『カフェ・ライトール』の方角を指した後に、左手の人差し指を左右に振り(ダメ!)のサインをした。

「え?カフェの方角がダメってこと?」
 トーレが思わず口に出すと、女の子は軽くウンと頷いた。

(え?これって、キャサリーンさんとの打ち合わせがダメってことなのかな?)
 トーレがそう思った途端に、今度は、女の子は左手で半分のサインを示し、片側をOK、もう片側にNGのサインを出した。

(えええーっ!僕の考えていることが分かるんだ!)
 トーレは思わずウーンと唸って腕組みをした。

 女の子は次にちょっと振り返り、厨房の方角、そこには後ろ向きで床をモップでせっせっと拭いているアンゲラの姿があったが...そちらの方を指差した後に、トーレに向き直り両手でハートのマークを作り、OKサインを出した。

(え?!それって...もしかして、アンゲラの事?)

 トーレがそう思うと、女の子はニッコリとほほ笑んで頷いた後に、そそくさと二輪の黄色い花の後ろに回ったかと思うと、たちまちその姿は見えなくなってしまった。

 トーレは阿呆のようにポカンと口を開けていたが、そこにアンゲラが戻ってきて、少々強引な感じで、

「足の下拭きたいんですけど、いいですか?」

 と言い、トーレが椅子から素早く降りると、アンゲラはカウンターの椅子の下をゴシゴシと拭き始めた。

「あ、あのさ、アンゲラ?」
 トーレは少々とまどい気味に切り出した。

「え?何ですか?」
 アンゲラは少々怪訝そうに顔を上げた。

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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節~ 野に咲く花 その2 ~ [球体関節人形製作]

「...あれだけ大きな看板を描いてもらうほどの予算は無いが、、、近いうちにうちの店の小さな看板にも何か描いてもらおうかな?、、、君のところの親方に話してみるよ!トーレ君をご指名でな!」
 ルッジエロはそう言うとトーレの肩を大きな手のひらでポンと叩くと、料理の下ごしらえをするために厨房に戻っていった。

「ありがとうございます!ルッジエロさん!」
 トーレは自分の描いた看板を、またも人に褒めてもらえて心が高揚してきた。

(なんだか今日はついているな!...これは、もしかしたら、いい流れになるかもしれない)

 トーレの心は10時からのキャサリーンとの打ち合わせにいろいろと想像をめぐらし始めた。

「〇×△※...あの、トーレさん?...」
 ふと気が付くと目の前にアンゲラがモップを持って立っていた。
 何かトーレに話かけたらしい。

「え?!...あ、アンゲラ?何か言った?」

「...あの、トーレさん。ちょっと差し出がましいことかもしれませんけど...その花束の花の色の組み合わせって、お店の改装祝いというよりは...何か、女の子にプレゼントとして渡すような色の組み合わせだと思うんですけど?...」

「え?!そうなのかい?」
 トーレはちょっとびっくりし、かつ、花屋の店主のロジーナに見透かされたことに気が付き、顔を少々赤く染めた。

「...実は、この花束は朝市の花屋のロジーナさんに全て見繕って作ってもらったんだ...」

 トーレのその返答を聞き、アンゲラは__
「...あ、そうだったんですね。じゃあ、そういうことなんですね。わかりました...」
 と返すと、ちょっと俯《うつむ》き加減となり、またトーレから離れ、店の木の床をモップで拭き始めた。

 トーレはそんなアンゲラの様子を見て、
(...あれ?何だか気を悪くしたのかな?)
 と思ったが、心の半分はまたも10時からの打ち合わせに飛んでいた。

 ___と、そのときトーレは窓際の左端においてある無色の小さなガラスの小瓶に黄色い花が二輪さしてあることに気が付いた。
 野に咲いていた花のようで、花の形は不揃いだが、野趣あふれる美しさがあった。

(ふーん。二輪だけだけど、綺麗な花だな...アンゲラが持ってきたのかな?)

 トーレが花を良く見ようと顔を近づけると___突然、二輪の花の影から小さな透明感のある白い小人が顔を覗かせたのであった!

「えっ?!」
 トーレはびっくり仰天して、思わず後ろに体を引きながらも、その小人に目をやった。

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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節 ~ 野に咲く花 その1 ~ [球体関節人形製作]

「あら、トーレさん。おはようございます! 早いですね」
 アンゲラは持ち前の明るさで、先にトーレに挨拶してきた。

「やあ!アンゲラ。今日も朝から良く働いているね」
 トーレもすぐに挨拶を返した。

「...その花束は?!どうしたんですか?」
 アンゲラは坂の上まで上がってきたトーレを見て、目を輝かしつつ言った。

「あ、ああ...これは、バントールのキャサリーンさんと10時から打ち合わせなんで、お店の改装記念に渡そうと思うんだ」
 トーレはそう言いながら花束を持った左手をちょっと振り上げた。

「...あ、そうなんですね...」
 アンゲラはちょっと落胆したように応じたが、すぐに気を取り直して__
「待ち合わせが10時だと、まだ40分以上ありますよ? それまで日向にいたら花が萎れてしまいます...うちの店は開店が11時だけど、10時まで店の中で待っていませんか?」

「え、開店前の店の中にいたら仕事の邪魔じゃないか?」
 トーレはちょっと遠慮がちに言った。

「いいえ、大丈夫ですよ。窓際のカウンター席に座ってください。 どうぞ!」
 アンゲラは勢いよく店の扉を開いてトーレを招き入れた。

「ありがとう!...アンゲラ。それじゃ、ちょっと座らせてもらうよ」

 トーレは一応馴染みの客であるので、遠慮なく店の中に足を踏み入れると、アンゲラの案内で、海に面した横一列の窓の下のカウンター席の一番左端の席に腰を下ろした。

 ここからは波止場の広場の朝市や、港に行きかう船や、穏やかな海面を良く見渡すことができる。

 トーレが自分の右隣の席の上に花束を載せていると、厨房から40代の店の主人が笑顔で現れ、カウンターに近づいて来ると、トーレの前のカウンターテーブルの上に炭酸水の瓶を1本置いた。

「やあ、トーレ! こいつは俺のおごりだ。飲んでくれ! 今アンゲラから聞いたよ。バントールの娘さんと打ち合わせだって?」
 厨房から現れた男の名はルッジエロといい、この店の店主兼料理長であった。
 
「え?いいんですか?ルッジエロさん」
 トーレは驚いて聞き返した。

「ああ。俺も今朝、散歩中にバントールの店の新しい看板を見たよ、、、いい出来じゃないか! 威勢のいい船乗りがこれから出港していく様子が、何とも映画の一場面のようだったよ」
 ルッジエロはトーレの描いた看板の絵を褒めたたえた。

「ありがとうございます!そう言ってもらえると嬉しいです!」
 トーレは少し頭をかきながらそう答えた。


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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 プロローグ ~ 港町ボーリの朝 ~ その2 [球体関節人形製作]

プロローグ ~ 港町ボーリの朝 ~ その2

「あ、、、えーと25000リラで作ってもらいたいんですけど...」
 普段、花束など買ったことの無いトーレは、店主にお任せという感じで答えた。

「あら、ずいぶんと張り込んだわね...そうね...」
 そう言うとロジーナは薔薇やカーネーションを中心に切り花を集めだした...そして、

「じゃあちょっと、おまけして、こんな感じでどうかしら?」

 ロジーナは、ピンクの薔薇と赤のカーネーション、白いカスミソウで可愛らしくもボリュームのある形に仕上げ、切り口に水を染み込ませた薄布を巻き、手で持つ部分には可愛いピンク色のリボンを巻いてトーレに手渡した。

「はい、薔薇とカーネーションの本数をちょっとおまけしといたわ。ボリューム出たでしょう? 日射しが強くなってきたから、花束を下に向けて持って、日光に当てないように注意してね?」

「ありがとうございます! ロジーナさん」

 トーレは25000リラを紙幣で支払うと、朝市の準備に忙しい屋台の間を通り抜け、朝市が開かれている波止場の広場の端にある網をしまう小屋の前の丸椅子にゆっくりと腰を下ろした。

 約束の10時まで、そこで時間をつぶそうと思ったが、ふと石畳の坂道の上を見上げると、一週間のうち2回は行くことのある港の大衆食堂『トリアン』が目に入った。

 そして、入口の扉のところでモップを持って朝の掃除に取り掛かろうとしている一人の給仕の少女に気が付いた。

 その少女の名前はアンゲラ__義務教育である高等学校を通常は5年間であるところを3年で切り上げて卒業し、去年の9月からは『トリアン』で働いているので、まだ17歳であったが、もう大分店の仕事には慣れたようであった。
 
 トーレ自身も高等学校を3年で切り上げて卒業した後に、すぐに地元の左官塗装店に弟子入りし、今年で2年目の19歳である。

 彼は『トリアン』で食事をするときに、アンゲラと毎回少し話をするが、それほど長く話したことは無かった。

 アンゲラは、赤毛で、そばかすが少し、そして...ちょっと左足を引き摺っていた。
 美人ではない...が、それなりに可愛く、気立ての良い娘であった。

 トーレは仕事中の彼女に話しかけるのはちょっと気が引けたが、この小屋の表の丸椅子に座って花束など持っていると、店からは、いやが上にも目についてしまうので、自分から挨拶することにして、花束をぶら下げたまま坂道をゆっくりと登り始めた。

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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 プロローグ その1 [球体関節人形製作]

プロローグ ~ 港町ボーリの朝 ~ その1

 トーレの心はウキウキだった。
 なぜなら、昨日の昼間に嬉しいことが立て続けに二つも起こったからである。

 一つ目は、自分がまるまる三日間かけて手掛けていた『よろずストア・バントール』の大幅な改装を宣伝するための大きな看板の絵の製作が、期日の土曜日を前に何とかギリギリ金曜日の夕方に仕上がったことであり、自分としても時間をかけただけあって納得のいく出来映えであった。

 二つ目は『よろずストア・バントール』の主人の一人娘キャサリーンに看板の出来を褒めてもらえ、いろいろと会話が出来たことで、さらに「トーレさんに折り入って頼みがあるの」という彼女からの言葉で、今日の土曜日の午前10時に『カフェ・ライトール』で待ち合わせていることである。

 トーレは港町のボーリで毎週土曜の朝9時に開かれる市場に小さな花屋が出店することを思い出し、今朝は早起きして、一張羅の薄いグレーの背広と焦げ茶色の革靴でおめかしをすると、市場のはずれで店を開いている小さな花屋にやってきたのである。

 花屋には5月の爽やかな季節だけあって、赤、黄色、ピンク、白、オレンジと、色とりどりで大きさも様々な切り花が店主の手で店頭に飾り付けられつつあった。

 店主はロジーナという名前の30歳越えの女の人で、トーレが聞いた話では旦那は檸檬《れもん》農園を営んでおり、その檸檬農園を四分の一程花畑にしてもらい、日当たりの良い斜面で1年中何らかの花が咲くように育てているとのことであった。
 そして、それらの花を今日の土曜日も朝市で売りに出しているのである。

「あら、おはよう、トーレ君。今日は早いわね?」
 花屋店主のロジーナは目ざとく声をかけてきた。

「あ、、、おはようございます。ロジーナさん」
 トーレは少し恥ずかしそうに答えた。

「今日はずいぶんと御粧《おめか》ししてるわね?どこかに出掛けるの?」

「ええ、ちょっと、バントールのキャサリーンさんと、打ち合わせで待ち合わせていて...バントールの店の改装のお祝いに花束を渡そうかと...」
 トーレは少し口ごもった。

「改装のお祝い、、、そうなの?」
 ロジーナは微笑みながら少し納得しかねるような口ぶりであったが___

「じゃあ、今の季節にピッタリのピンクの薔薇のハイブリッド・ティーはどうかしら?」
 そう言いながらピンクの薔薇を集め始めた。

「ところで、トーレ君。ご予算はいかほどで?」


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「花の妖精フローラ」第一話 繰り返す思い出 最終節 エピローグ [球体関節人形製作]


 時は流れ5年経ち、僕たち家族三人は、例の『はればれ高原』に来ていた。
 僕は年季の入った愛用のデジタル一眼レフカメラをまだ使っており、今日は3歳になった娘のポートレートを主に撮っていた。
 妻の百合菜は娘の真奈菜《まなな》の後ろで娘が転ばないように見守っており、僕は少し離れたところからお花畑と一緒に立ち姿の真奈菜を撮っていた。
 そのとき、真奈菜が急にしゃがみ込み、何かを見つめているようだった。

「何を見てるの?真奈菜」
 妻の百合菜が娘の後ろから娘が見ているものを覗きこみ、ハッとしたような顔になり、僕に手招きをした。
 なんだろう?と思いつつ、僕は妻の横に来て同じようにしゃがみ込み、二人が見ている方向を見た。

 そこには、5年前に見たのと同じ妖精の少女が、やはり薄紫の花びらの下の葉に座っていたんだ!

 薄緑色のワンピースで、髪の毛は濃い黄緑色で、足は素足で靴を履いていなかった。

 妖精の女の子は、僕たち三人に向かってバイバイと右手を振った後に、サッと姿を消してしまった。

「いまの、ムシさん?」
 3歳の娘の真奈菜が、僕たちの方を振り向いて言った。

 僕と百合菜は顔を見合わせて笑い、そして、僕は娘に言った。
「いいや。いまのは花の妖精さんだよ」

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