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青い炎と人形の物語 第10章 一か八かの計画 その3 [球体関節人形製作]

 突然の砲撃が始まったのは12日の未明のことであった。

 デイテュラント帝国陸軍の戦車中隊がシュベルトの町へ続く道への進行を開始するのは12日の夜明けの命令であったが、それよりもわずかに早くボルソーカ国とラッシア国の連合戦車大隊は動き始めたのである。

 ラッシア国のタル34戦車の大砲塔からの砲撃は国境線をまたいで、デイテュラント帝国陸軍のパンサー戦車に浴びせられ、中隊は大混乱に陥った。
 また、タル12対戦車砲からの砲弾が垂直に近い着弾により、パンサー戦車の上部ハッチの薄い装甲を貫通し爆裂し、何台もの戦車が戦闘不能となった。

 ボルソーカ国とラッシア国の連合戦車大隊はそのまま国境線を越え、デイテュラント帝国内に侵入し、そのままシュベルトの町へと侵攻を開始した。

 この事態に驚いたデイテュラント帝国陸軍のクッシュ中佐はすぐさまヘルフリート少将に連絡を取り指示を仰いだ。
 ヘルフリート少将はシュベルトの町の西部に待機させていた戦車中隊を急ぎ進軍させ、追加で本隊である[ゲリマンの爪]大隊と[ゲリマンの爪]航空部隊の戦闘機を何機か発進させた。

 そうして両軍が激突するまさにその直前に、大いなる光の繭《まゆ》が両戦車大隊を包んだ__

******

「おいっ!前方に人の群れが並んで立っているぞ!」
大隊の戦闘を進行するラッシア国タル34戦車の双眼鏡を見ていたひとりの兵士が突然叫び、その会話は無線で他の戦車にもすぐに伝わった。

「いや!道の左右にもいるぞ!...こ、この人達は!」
 後ろに付く十数台の戦車からも同様の連絡が入った。

「あれは、、、3年前に死んだ母親じゃないか!」
「去年、亡くなった兄貴だ!」
「なんてこった!5歳のとき病気で亡くなった息子が立っている!」


 戦車の兵士は皆一人残らず自分の死んだ身内がいることを確認していた。

『...このデイテュラント国の東部地方は、私たち亡者たちの安住の地バルハラなのだよ。どうか後生だから、この地を荒らさないでおくれ、お前もお前の子供たちもいずれは、この地に来ることになるのだから...』
 この言葉がそれぞれの亡者から、それぞれの生きている身内の兵士に伝えられた。

 ___そして、同じことは、ラッシア国の首都モルダワにあるコラムレーン宮殿の指令室で待機していたスタルン総司令にも起きていた。

 総司令の目の前に十数人もの死んだ身内、父母、祖父母、いとこ、友人...皆、同様のことを口々に伝えてきた。

 さすがのスタルン総司令もこの状況には心臓が飛び出るほど驚愕し、床にひれ伏してしまった。

「スタルン総司令! 国境線の大隊からの報告があります!、、、私も見たのですが、、、亡くなった親族や友人が攻撃をやめてくれと訴えてきています!」
 指令室に飛び込んできたロプコフ大佐が叫んだ。

「わかった!もう、わかった!許してくれ!...これは命令だ!大隊を撤退させろ!いますぐにだ!」
 スタルンは床にひれ伏しながらロプコフ大佐にそう伝えた。

******

 それから、30分もせずに、ボルソーカ国とラッシア国の連合戦車大隊は侵攻してきた道をそのまま引き返していった。

 デイテュラント帝国の西部から進軍を開始していた戦車中隊、陸軍本部に来ていた[ゲリマンの爪]のヘルフリート少将、そのほかの将校にも敵軍と同様のことが起きていた。

 そして、彼ら将校に対してマリーの精神感応の放送が伝えられた。

『私たち魔女族、鬼人族、狼人族が協力して、ボルソーカ国とラッシア国の軍隊を退けさせました...
私たちはこれ以上の戦いは望んではいません。すべての兵を引き上げて、このデイテュラント帝国東部の地域を自治国として不可侵条約を締結してください』

「...」ヘルフリート少将は、この現象の原因が魔女達が作りだした魔法であることを理解したが、ボルソーカ国とラッシア国の連合戦車大隊をデイテュラント帝国から撤退させたその途方もない力に、ある意味、畏敬の念を抱くこととなった。

「われわれ[ゲリマンの爪]は本日を持って解散する...皆、自身のそれぞれの職場で責務を全うしてくれ、以上だ!」
 ヘルフリート少将は将校達に伝え、命令はその日のうちに末端まで伝わり、[ゲリマンの爪]はその存在を消滅させていった。

 当然、シュベルトの町の西部に駐留していた戦車中隊も撤退していった。

...to be continued.

p.s.次回はいよいよ最終回です。

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