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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第2節 ~ 『カフェ・ライトール』での出来事 その1 ~ [球体関節人形製作]

 バルコニーの中で最も見晴らしの良い席は、高価な四角いチーク材のテーブルと四つの椅子席であったが、トーレは海が正面に見え、かつ店の屋内の方に背を向けた位置の椅子に座った。
 そしてキャサリーンに渡す花束を道路側の右手の椅子の上に置き、キャサリーンには自分の左側に座ってもらったらいいなと思いつつ待っていた。

 トーレはそれから少しの間、いろいろと空想を巡らせつつ、穏やかな5月の青い海を見ながらキャサリーンの登場を待っていた。

 トーレが父の形見である懐中時計を背広の懐から取り出すと10時5分を指していた。

(女の子だから、いろいろと時間がかかるんだろうな)

 トーレがそんなことを考えていると、自分の背後の店内の出入り口から先ほどのフロア係の若い男の声が聞こえた。
「あちらの席でございます。キャサリーン様」

 トーレが椅子から立ち上がり後ろを向くと、そこには圧倒されるほど美しいキャサリーンの姿があった。
「あら、トーレさん。早かったのね?」

 キャサリーンは、大きく開いた胸元と、キャメル色のベルトがアクセントの、肩ひもの付いた真っ白なワンピースを着ており、金と銀があしらわれた白いサンダルで優雅に歩を進めてきた。

 そして、流れるような濃いブラウンの長い髪の上に、薄い小麦色の上品な形のストローハットを被り、ハットにはシックな黒いリボンが巻かれていた。

 彼女は歳がトーレの1つ上の20歳で、去年の9月に5年間の高校を卒業し、首都レーマにある大学に通っており、普段は大学近くのアパートで暮らしている。

 そして、今回は、週末に向けて休みを取って地元に戻ってきているのだと、金曜の夕方に言っていたことをトーレは思い出していた。

「あ、おはようございます。キャサリーンさん...あの、これは、お店の新装開店のお祝いです!」
 トーレは右側の椅子の上から花束を取り上げると、キャサリーンに差し出した。
 
「あら、どうもありがとう。トーレさん」
 キャサリーンはブラウンの切れ長の目を少し細め笑顔を作ると、花束を受け取り颯爽とトーレの正面の椅子に周ったので、トーレはあわてて正面の椅子を引き、キャサリーンは優雅に椅子に腰を掛けた。

 彼女は花束が先ほどまで置かれていたトーレの右側の椅子の上に、受け取った花束を置いた。


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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節~ 野に咲く花 その4 ~ [球体関節人形製作]

「あー、そこの瓶の花だけど、アンゲラが持ってきたのかい?」

「...ええ、今朝、来るときに海の見える丘の道の脇に咲いていて、綺麗だったから店に飾ろうと持ってきたの?、、、それが何か?」

「いや...綺麗な花だなーと思って...」

 トーレの言葉にアンゲラは少し顔を赤らめた。

「花屋で売っている花は確かに形も整っていて綺麗だけど...」

 アンゲラはモップを左肩にもたれさせて、両手の指先をちょっと絡めながらトーレを見た。

「野に咲く花も綺麗ですよね?」

「ああ、そうだね。何だか元気で、野性味があって、生き生きとしているね!」

 トーレの言葉にアンゲラは少しだけ複雑な表情をしたが、すぐに微笑み元気に言葉を返した。

「野性味...そうですよね!野に咲く花ですものね」

「あ...そろそろ、行かないと。打合せに遅れたら失礼だからね」
 トーレは厨房の入り口の上に取り付けられている古い柱時計を見て言った。

「...そうですね。いってらっしゃい!」
 アンゲラは精一杯の笑顔でトーレを送り出した。

************

 今は9時50分、約束の10時まで後10分だが、『カフェ・ライトール』に着いたトーレはその店構えを見て少し気後れしてしまった。

「うわー。やっぱり値段高そうだな...」

 豪邸のように立派な不等辺三角形の大きな屋根を持った店で、海に面した側に張り出しているバルコニーも広く、全体が真っ白な塗装で統一されていた。

 少しだけ金色があしらわれている大きなガラスのはまった入口のドアを開くと、とても上品なベルがカランカランと小さく鳴った。

「いらっしゃいませ」

 真っ白なシャツに黒いスラックスと革靴で、左手に丸い銀のトレイと白いナプキンを抱えた若い男のフロア係が微笑とともにトーレを出迎えた。

「えー、あのー、10時にキャサリーンさんと待ち合わせているトーレといいます」
 トーレはドギマギしながら言った。

「キャサリーン様から、その件は伺っています。それではご案内しますので、こちらへ」
 トーレはフロア係の男に付いて行き、バルコニーの中で最も見晴らしの良い席に案内された。
「それでは、しばらくお待ちください」

 そう言い残してフロア係の男は屋内の店の中に去っていった。

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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節~ 野に咲く花 その3 ~ [球体関節人形製作]

 二輪の花の影から現れた小人は白いミニスカートのドレスを着ており、肌は白く、髪は白だがわずかに青みがかっていて、妖精のように綺麗な女の子で、背丈は5cmくらいであった。

 そして、器用に右手で黄色い花の茎につかまりながら、ガラスの小瓶の縁をゆっくりと歩いてトーレの目の前に姿を現した。

 とても非現実的な状況ではあったが、妖精の女の子の可愛らしさのためか恐怖は微塵も感じることは無く、トーレはその小さな女の子をジィッと見つめた。

 すると女の子は、これからトーレが行く『カフェ・ライトール』の方角を指した後に、左手の人差し指を左右に振り(ダメ!)のサインをした。

「え?カフェの方角がダメってこと?」
 トーレが思わず口に出すと、女の子は軽くウンと頷いた。

(え?これって、キャサリーンさんとの打ち合わせがダメってことなのかな?)
 トーレがそう思った途端に、今度は、女の子は左手で半分のサインを示し、片側をOK、もう片側にNGのサインを出した。

(えええーっ!僕の考えていることが分かるんだ!)
 トーレは思わずウーンと唸って腕組みをした。

 女の子は次にちょっと振り返り、厨房の方角、そこには後ろ向きで床をモップでせっせっと拭いているアンゲラの姿があったが...そちらの方を指差した後に、トーレに向き直り両手でハートのマークを作り、OKサインを出した。

(え?!それって...もしかして、アンゲラの事?)

 トーレがそう思うと、女の子はニッコリとほほ笑んで頷いた後に、そそくさと二輪の黄色い花の後ろに回ったかと思うと、たちまちその姿は見えなくなってしまった。

 トーレは阿呆のようにポカンと口を開けていたが、そこにアンゲラが戻ってきて、少々強引な感じで、

「足の下拭きたいんですけど、いいですか?」

 と言い、トーレが椅子から素早く降りると、アンゲラはカウンターの椅子の下をゴシゴシと拭き始めた。

「あ、あのさ、アンゲラ?」
 トーレは少々とまどい気味に切り出した。

「え?何ですか?」
 アンゲラは少々怪訝そうに顔を上げた。

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花の妖精フローラシリーズ 第二話 窓辺の花束 第1節~ 野に咲く花 その2 ~ [球体関節人形製作]

「...あれだけ大きな看板を描いてもらうほどの予算は無いが、、、近いうちにうちの店の小さな看板にも何か描いてもらおうかな?、、、君のところの親方に話してみるよ!トーレ君をご指名でな!」
 ルッジエロはそう言うとトーレの肩を大きな手のひらでポンと叩くと、料理の下ごしらえをするために厨房に戻っていった。

「ありがとうございます!ルッジエロさん!」
 トーレは自分の描いた看板を、またも人に褒めてもらえて心が高揚してきた。

(なんだか今日はついているな!...これは、もしかしたら、いい流れになるかもしれない)

 トーレの心は10時からのキャサリーンとの打ち合わせにいろいろと想像をめぐらし始めた。

「〇×△※...あの、トーレさん?...」
 ふと気が付くと目の前にアンゲラがモップを持って立っていた。
 何かトーレに話かけたらしい。

「え?!...あ、アンゲラ?何か言った?」

「...あの、トーレさん。ちょっと差し出がましいことかもしれませんけど...その花束の花の色の組み合わせって、お店の改装祝いというよりは...何か、女の子にプレゼントとして渡すような色の組み合わせだと思うんですけど?...」

「え?!そうなのかい?」
 トーレはちょっとびっくりし、かつ、花屋の店主のロジーナに見透かされたことに気が付き、顔を少々赤く染めた。

「...実は、この花束は朝市の花屋のロジーナさんに全て見繕って作ってもらったんだ...」

 トーレのその返答を聞き、アンゲラは__
「...あ、そうだったんですね。じゃあ、そういうことなんですね。わかりました...」
 と返すと、ちょっと俯《うつむ》き加減となり、またトーレから離れ、店の木の床をモップで拭き始めた。

 トーレはそんなアンゲラの様子を見て、
(...あれ?何だか気を悪くしたのかな?)
 と思ったが、心の半分はまたも10時からの打ち合わせに飛んでいた。

 ___と、そのときトーレは窓際の左端においてある無色の小さなガラスの小瓶に黄色い花が二輪さしてあることに気が付いた。
 野に咲いていた花のようで、花の形は不揃いだが、野趣あふれる美しさがあった。

(ふーん。二輪だけだけど、綺麗な花だな...アンゲラが持ってきたのかな?)

 トーレが花を良く見ようと顔を近づけると___突然、二輪の花の影から小さな透明感のある白い小人が顔を覗かせたのであった!

「えっ?!」
 トーレはびっくり仰天して、思わず後ろに体を引きながらも、その小人に目をやった。

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