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青い炎と人形の物語 第5章 マリーの覚悟 その1 [球体関節人形製作]

 こんばんは、てぃねこです。

 フランツが帰宅して娘のマリーと会うのだが...?

 それでは、どうぞお読みください。


第5章 マリーの覚悟 その1

 「パパ!お帰りなさい!待っていたの!」

 開かれた扉の先に立っていた少女が、いきなりフランツに
抱きついてきた。

物語のマリーとフランツCsmall.jpg

 「!!、、おっと、ただいま!マリー」
 二人は抱き合い、お互いの頬にキスをした。

 「、、、どうしたんだい?マリー、何かあったのかい?」
 いつにも増して、しがみついてくる娘にフランツは、ちょっと不安を感じた。

 「パパ!よく聞いて!」マリーは鋭い猫のような目で、フランツの目を見据えて、記憶の箱を解き放つ鍵の言葉を口にした。

 「夜の夢の中のスージーはママよ!、、、ルイーゼママよ!」

 (!!あっ!!)

 フランツの深層意識が解き放たれ、夜に何十回も見ていた人形スージーとの会話が頭の中に溢れ出した!...そして、スージーの中にルイーゼがいることを!...全て思い出した。

 「...そうだった。ルイーゼと何回も相談していたんだ、、、夢の中で、、、だから、人形のスージーを大事にしていたんだ」
 フランツは、そう言うと同時に、心がズキンと痛んだ。

 「マリー!...」彼は意を決して言った。
 「マリーとルイーゼに言わなければならないことが、、、あるんだ...」

 「パパ!それは言わないで!」マリーは強い意思と共に言った。
 「わたしも、毎晩、スージー、いえ、ママから魔法の教えを習うことと、それから他のことも聞いたことを全部思い出したの!だから今は言わなくていいわ」

 「マリー?...え?!、、、じゃあ、魔法の力に目覚めたということなのか?!」フランツは驚いた。

 「そうよ!パパ!話すことがいっぱいあるから、こっちに来て!」マリーはフランツの手を引いて、居間へと導いた。

 二人掛けのベージュのソファーに腰を下ろすと、マリーはフランツに昨日起きたことを全て話した。
......
 ○伯母のリーゼに一旦は拐《さら》われたこと。
 狼人のエルケとダークのこと。
 ○ママのルイーゼが、今はリーゼとともに1つの体の中に居ること。別れたときはルイーゼの意識が表側に出ていたが、今はリーゼが表側かもしれないこと。
 ○〈背中を押す魔法〉は、半分はマリーがかけたので、〈釣り上げの魔法〉は、やはり半分はマリーがかけないとダメだということ。
 ○今、マリーが使える魔法と、猫のサミー、犬のベルガーとの会話のこと...などなど。

 マリーの話ぶりは子供の口調ではあるが、10日前に別れたときよりは、はるかに聡明になっており、ある意味、思慮深い大人のようでもあった。

 (10才とは思えないな...これも、マリーの魔法の力を覚醒させたルイーゼの努力があったからだな...)フランツはそう思うと同時に自らの覚悟を決めた。

 「よし!マリー!パパは5日後に、また2週間ほど遠くに出張しなければならないけど、そのまえにリーゼ義姉《ねえ》さんに会いに行って話をつけよう!」

 「...パパには、何かいい解決方法がある?」マリーが優しくも鋭く尋ねた。

 「これは、まだ、できるかどうかわからないが、、、」フランツはやや言い淀んだが続けた。
 「前に2度会ったことがあるラウラという魔法使いに、マリーの魔法の先生になってもらうようにリーゼ義姉さんと交渉してみよう!」

 「ラウラさん...小さい頃に会ったことがある。ママと、リーゼ伯母さんを救う魔法を習得することを交渉の切り札にするのね」
 マリーのその発言の聡明さに、フランツはびっくりしたが、同時に、彼女がすぐに了解してくれたこともとても嬉しかった。

 「さて、夕方だから、そろそろ、アガーテさんが来るころ...」フランツがそう言いかけると、玄関の重い木の扉を3回打つドアノッカーの音が聞こえた。

 「あ!アガーテさんだわ!」マリーはすぐに玄関に走ると扉を開けたのだが、すでに精神のフィールドを離れたところまで伸ばす方法も彼女は会得していた。

 「まぁ、マリー!、、、あ!フランツさん、お帰りなさい。昨日は眠りこんでしまい申し訳ありませんでした」そう言ったアガーテは、今日の昼前に旦那と共に目が覚めて、一度マリーの家にあわてて謝りに来たのであった。

 そして、3人はアガーテが作った美味しいグラーシュパスタに舌鼓を打ったのであった。
 
......

 アガーテさんの片付けが終わり、彼女がサヨナラをして帰宅した後に、フランツはホットココアを作り、マリーにはミルクを多めにして居間に運んできた。

 「マリー、明日、まずラウラさんの...」フランツがそこまで言いかけたとき、再び、重い扉のドアノッカーが叩かれた。
 「まぁ!パパ!話したエルケさんよ!」マリーはまた玄関まで走って行った。
 フランツはマリーのその行動で、彼女の覚醒した魔法の能力の一部を理解した。

 玄関の扉が開かれると、そこにはメイド姿の若い女がひとり立っていた。

......

to be continued...

 
 
 
 

 
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青い炎と人形の物語 第4章その4 [球体関節人形製作]

てぃねこ@ハニたろべネコです。

人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。  
「青い炎と人形の物語」の第4章の続きです。

ファシーズ党に入党したブルクハルト王子の真意は何なのか?
それでは、物語の開始です。

第4章 自治区 その4

 自治区設立法案は無事、帝国国会に提出され可決されたのであるが、話はその1週間後となる。

 自治区設立法案が可決されたことを受けて、ファシーズ党とメンシュナ党合同での視察委員会が発足し、フランツとカーヤも招集された。
 初回の会合の直前に、クランツ議員はフランツにメンシュナ党視察委員内での副委員長の役割を依頼した。

「君も知っての通り、帝国統一選挙1年前の今の時期は、委員長のロータル議員も地方遊説でいろいろと忙しい。それで、今回の視察の前半は彼も同行するが、後半の取りまとめは、フランツ。君にお願いしたい」

「わかりました。クランツさん。前もってお願いしていたように助手に同行してもらってもいいですか?」フランツはあらかじめ、カーヤに視察の可能性を打診してあり、OKの返事をもらっていたので、ちょっと斜め後ろにいるカーヤのほうをチラリと見やって彼女を紹介した。「こちらが助手のカーヤです」

「初めまして、クランツ議員、カーヤ・ファールバッハです」カーヤは前に進み出て、クランツと握手を交わした。

「あぁ、君がフランツの右腕となる才女のカーヤだね。噂はかねがね聞いているよ」クランツはにこやかに答えた。

「カーヤ君の同行については、もちろん予定に入っているとも。こちらからは、ヨーゼフ博士、議員秘書のディーター、あとポーターの男1名が同行するので宜しく頼む。視察の出発は12月7日の朝だ。遅れないように」クランツはそう言うと頼むぞというようにフランツの背中を叩いた。
 クランツはフランツとがっしり握手を交わし、彼は議員会館の別の棟に去って行った。

......

 その後、別室において、フランツ、カーヤ、ロータル議員、ディーターの4名が顔を合わせ、挨拶と今後の打ち合わせを行った。

「今回の視察行程については、すべてディーターが受け持っている」ロータル議員はそう言いいつつ、頼もしそうに30前位の男を見た。
「もちろん、今回の視察全体のとりまとめは、最終的にフランツ君にお願いしたい」

「わかりました。ロータル議員」フランツがそう答えると、ロータルは「いや、そんな堅苦しくなくロータルと呼んでくれ」と返した。
「それでは、ロータルさん、ヨーゼフ博士は会合には不参加なんですか?」
「あぁ、欠席と聞いているが、視察には同行するそうだ」ロータルはそう言ってディーターを見た。

「はい、フランツ先生。ヨーゼフ博士は明日まで学会の講演をしておりますが、5日後の出発には合流できるとのことです」ディーターは、そこから主導権を持って話し始めた。

物語画像秘書ディーターsmallC.jpg

「視察は12月7日の朝10時に、バルリン駅の南口に集合してから出発します。鉄道のチケット、現地での馬車の調達、宿の手配についてはすべて私にお任せ下さい。それと、今回は特別にメンシュナ党の私がファシーズ党の視察委員の旅行の手配も行っています」

「ディーターさん、ファシーズ党の視察委員の名簿はありますか?」カーヤがそこですかさず口を挟んだ。

「はい、カーヤさん、では、読み上げます」ディーターは名簿の紙を開いた。



「まず視察委員長ですが、党の古参のエッボ議員で、副委員長は帝国陸軍のベンジャミン少将...」彼はそこで一旦言葉を切り、すぐに続けた。
「それから、帝国教会のアウグスト神父、エッボ議員の秘書でユルゲン、そして帝国陸軍のザスキア少佐の以上5名となります」

「少将と少佐か、、、軍人が二人もいるというのは、最初から、軍による統制の事実を示したいのだろう」ロータル議員は苦々しくつぶやき、フランツも確かにとうなづいた。

「しかし、将校クラスの者が視察団に入るとは異例だな。通常は考えられないが」ロータル議員が独り言のようにそう言うとフランツはハッとして思わず口に出した。

「先日の会議で見た将校の中にブルクハルト王子がいたのですが、まさか彼が参加するのでは?!」

「あぁ、あの若そうな新顔の将校か、しかし王族だとしたら会議の冒頭で紹介くらいあるのが普通だ。似てはいたが、他人の空似ではないのか?」ロータルはそう言いながら会議のレジュメを取り出した。
「うむ。確かに、、、ベンジャミン少将と記載があるから、あの男が同行するのだな。恐らく。しかし、さすがに王子ではないだろう」

「なるほど...確かに王一族のラストネームではないですね」フランツもレジュメを見て同意した。

「...ミドルネームかも...」カーヤがつぶやくように言い、フランツとロータルは思わず彼女を見やったが、次の言葉で話は別の方向へと進んでいった。

「ディーターさん、ザスキア少佐は女性ですか?」

「はい、そのように聞いていますが、、、あ!それで今回は例外的なことで、皆様には大変申し訳ないのですが...」ディーターはそこで一呼吸置いた。

「視察の各地方においては、辺境の地であるため、十分な宿泊先を見つけることが困難でした...それで、皆様は二人ずつの相部屋ということでお願いします」彼は申し訳なさそうに言った。

「私共では、ロータル議員と私、フランツ先生とヨーゼフ博士、ファシーズ党では、ベンジャミン将校とアウグスト神父、エッボ議員と秘書のユルゲン、、、そして、、、」ディーターは最後にも、さも申し訳なさそうに伝えた。

「カーヤさんは、同じくただ一人の女性のザスキア少佐と同室をお願いしたいのですが...」

 それを聞いたカーヤは肩をすくめたが、軽く頷いた。「...辺境の地の事情については、私もいろいろな調査で知っています。立場の違いはありますけど、うまくやっていきますよ...逆にザスキア少佐のほうはどうなのですか?」

「それについては打診済みで、(軍人ですから何の問題もありません)との返事を頂いています」ディーターはよどみなく答えた。
「結構、結構」ロータル議員が合いの手を入れた。

......

 一同は、その後、必要のことを打ち合わせた後に解散した。

......

「じゃあ、カーヤ、5日後の朝に、、、関連資料については頼んだよ」フランツはそういうと手を軽く上げた。

「ええ、わかってるわ。フランツ。それじゃマリーにもよろしくね」カーヤはそう返すとフランツと軽くハグし、関連資料の整理のため、別室の資料室に向かって行った。

「さて、駅に急ぐか」フランツは旅のトランクを持ち、早速、会議室を出て、こい紫がかった赤の絨毯を歩き、議員会館のロビーに向かって行った。

 ロビーには、いくつかの焦げ茶のテーブルと、それを囲むように黒い革のソファーが並べられていたが、その中の1つに
暗い緑の軍服に身を包んだ二人の人物が座っていた。
 そして、フランツがその横を通り過ぎようとした時に不意に立ち上がり、彼の行く手をふさいだのだった。

「...失礼ですが、フランツ先生ですね?」小麦色の髪をした背の高い男が声をかけてきて、右手を差し出した。
「帝国陸軍のベンジャミンです。今回の視察に同行します」

 思わぬ展開にフランツはビックリしたが、すぐに自治区設立法案の会議に出席していた(王子に似ていた男)だと分かった。
「...失礼ですが、ブルクハルト王子ではありませんか?」
フランツは同じく右手を差し出しながら、勇気を出して尋ねた。

「あぁ、よくご存知ですね。普通の市民の方ですと、現王の弟の子供の顔までは知らないことが多いのですが、、、その通り、私は王子のブルクハルトです。ちなみにベンジャミンは母方のミドルネームです」
そして二人は握手を交わした。

「そして、彼女も視察に同行する士官です」そう言って王子はスレンダーなボディにピッタリフィットした軍服に身を包んだ若い女を自分の横へと招いた。

「初めまして。帝国陸軍少佐のザスキア・ローラントです」そして彼女もフランツと握手を交わした。
「フランツ・ジルベールです」

「フランツ先生の有能な助手のカーヤさんは、ご一緒でなくて?、、、まだ、書類の整理中ですか?」ザスキアは軽い調子で、フランツがギクリとするような言葉を口にした。

 フランツの顔がやや青ざめたのを見て取って、ブルクハルトがフォローに入った。
「これは、いきなり部下が失礼しました」彼は柔和な微笑みを浮かべた。
「ザスキア少佐は帝国陸軍の情報部に所属しているもので、、、ちょっとお喋りが過ぎてしまいました。お許しください」

「初対面ですのに、失礼致しました」ザスキアはフランツに向けて軽く頭を下げたが、その口元にはわずかな微笑みを浮かべていたのをフランツは見逃さなかった。

「...いや、さすがは情報部ですね。こちらの行動はお見通しですか!」フランツは頭を掻き、微笑んで、さも驚いたように装ったが、ザスキアが最初に話しかけきたときの彼女の口元を見逃さなかった。

(彼女の犬歯!、、、狼人族とはまた違った形だ!、、、もしや、鬼人族か?、、、しかし、鬼人族の軍人がいるとは、、、?)フランツが目まぐるしく思考を回転させていると、ブルクハルト王子が言った。

「...それでは、お互い忙しい身の上ですから、このへんで、、、視察では、またよろしく頼みます」
そして、二人はフランツに一礼すると、その場を去って行った。
 フランツも王族の手前、あまり不躾に質問もできずに、こちらも深く一礼して、予期せぬファーストコンタクトは、あっという間に終わったのであった。

(...しかし、何か気になるな。カーヤに伝えるか?...いや、まぁ、後にしよう。今から駅に急げば、1時のハンブルス行きの列車には間に合うだろう!そうすれば家には夕方には着けるだろう!)

 フランツは議員会館の表に停まっていたタクシーに乗り込み、一路駅を目指した。

........ 

 次回からは、また場面が変わり第5章になります。
 お楽しみに!

to be  continued...  
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青い炎と人形の物語 第4章 その3 [球体関節人形製作]

てぃねこ@ハニたろべネコです。

人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。  
「青い炎と人形の物語」の第4章の続きです。

自治区設立法案の行方はどうなるのか? 法案提出となるのか?
それでは、物語を始めます。 

第4章  自治区(その3)  

 翌朝、フランツは、法案提出を審議する広い縦長の会議室の末席に座っていた。

 彼の横には、今回の法案提出を中心となって推進しているクラウス議員とその一派であるメンシュナ党員が座っており、その正面には、法案に難色を示しているエッカルト中将をはじめとしたファシーズ党派が陣取っていた。...が、その中に見慣れない若い将校の姿があった。  

(おや?誰だろう?今まで見た軍の将校の写真には無かった顔だが...?)フランツはいぶかしく思ったが、同時にハッとした。(いや、あの顔立ちは見たことがあるぞ、、、まさか?、、、ブルクハルト王子?!)  

 「静粛に!」ややざわついていた会議室で、フランツから見て一番奥に座っている初老のロホス議長が口火を切った。 

「本日は、メンシュナ党から提出された<自治区設立法案A(アル)>および、ファシーズ党から提出された<自治区設立法案B(ベル)>について審議を行います」  

「えっ?!」メンシュナ党一派はどよめいた。フランツばかりでなく、クラウス議員も驚きを隠せなかった。

(可能性として、対決法案C(セル)が提出されるものと予想したが、、、基本が自治区設立になったとは!、、、いや、まだ、法案の中身がどうなっているかが問題だ)フランツの頭の中は高速に回転し始めた。  

 「では、まず<自治区設立法案A>についてメンシュナ党クラウス議員、説明願います」続けて議長が言った。  

 「それでは、我々メンシュナ党からの自治区設立法案を説明します。まず...」クラウスは立て板に水のごとく流暢に話し始めた。
 彼が話したことを要約すると、次のようになる。 

 〈1 代表となる3つの民族と極少数の民族で構成される自治区を設立し、本国の帝国政府は自治区政府を独立した政府として承認する〉

 〈2 自治区内の治安維持のための自治区警備部隊を自治区内の民族で構成し、定期的に帝国政府と情報交換する〉

 〈3 自治区と本国との交易の条約を別途定め、共同の委員会を設立して毎年条約内容について協議する〉
 ...などであった。 

 「...以上となります。」 

 クラウスが一旦説明を終えたことを受けて、ロホス議長が言葉を継いだ。「それでは、法案Aへの質疑に移ります」

 すると、早速、ファシーズ党の切れ者であるオスヴァルト議員が手を上げ、口火を切った。 

 「自治区を構成する民族の通称名についてお聞きしますが」オスヴァルトは手揉みしつつクラウスとフランツを見た。

「クラウス議員から説明のあった民族の通称名はかなり広範囲の地名を表しておりますが、我々の調査によりますと、現在の彼らの居住域はもっと限定された地域となっています。通称名命名の根拠について教えて頂きたい」 

 「クラウス議員」ロホス議長が即座に返答を求めた。 

 「3民族の主な居住域については、おっしゃる通りですが、彼等が単独で点在する地域、放牧に要する地域を考慮に入れると命名した地名が妥当であると判断します」クラウスは早朝にフランツと打ち合わせた内容を淀みなく説明した。 

 「それでは、もう1つ」オスヴァルトはさらに質問を続けた。「各3民族の一派からは民族名について次の命名の要求がきております。すなわち、ヘクセン族、ヴォルフォン族、デリモン族であり、これらの意味は、魔女、狼人、鬼人を表しており、かなり危険な思想を持った民族であることが...」 

 そこでクラウス議員が反論した。「それは!各民族の少数の一派の要求であり...」 

 「クラウス議員!質問を遮らないように」ロホス議長がすぐさま釘を差した。 

 それを受けてオスヴァルトは続けた。「ゴホン!...少数であれ、危険な思想を持った民族であることに違いはないと考えます。そして、我々ゲルマールの平民の中からも、当該3民族による自治区設立には相当の不安を持っている者が多数いることが事前調査により示されております。これについてはどうお考えですか?」 

 「クラウス議員」ロホス議長がまた即座に返答を求めた。 

 「まず危険な思想とは言えないことを申し上げます!」クラウスは声を大きくして返答した。
「また、自治区内の治安維持に関しては、自治区警備部隊により、十分確保できます!」 

 そのクラウスの返答に対して、すぐに切り返してオスヴァルトが話し始めた。「それでは、我々ファシーズ党の法案Bについて説明します」

 オスヴァルトの発言について何も言わないロホス議長は、どうもファシーズ党寄りと見受けられた。

 そして、オスヴァルトは法案について以下の内容を述べた。 

 〈1 代表となる3つの民族と極少数の民族で構成される自治区を設立し、本国の帝国政府は自治区政府を傘下の組織として承認する〉

 〈2 自治区内の治安維持のために帝国軍隊を駐留させ、自治区内にも警備部隊を別途設けるが、軍の傘下の組織とする。また帝国海軍駐留のため、自治区範囲を拡大し、海岸線を一部含むものとする〉

 〈3 自治区と本国との交易の条約を別途定め、共同の委員会を設立し、条約内容については必要に応じて協議する〉 
 ...などであった。 

  「軍隊の駐留だって?!それじゃ自治区政府は帝国政府の言いなりになってしまうぞ!」クラウスは隣のフランツに小声で耳打ちした。 

 オスヴァルトが説明を終え、ロホス議長が言葉を継いだ。「それでは、法案Bへの質疑に移ります」 

 クラウスが立ち上がり言った。「帝国軍隊の駐留は自治区政府が独立して自治区を治めることの妨げになります!」 
...... 
 その後、クラウスとオスヴァルト、また双方の構成メンバーが論戦を行ったが、それに対してはロホス議長は何も言わなかった。 
 そしてしばらくの論戦の後、自治区設立法案の決を採る段となったが、法案Bが法案Aをわずかに上回り過半数となってしまった。 

 「それでは、過半数を超えたことにより、法案Bを本国会に提出します!」ロホスは高らかに宣言した。 

 「くそ!やられたな!直前にファシーズ党の根回しがあったようだな!」クラウスは小声でフランツに言った。

 確かに昨日まではメンシュナ党の地道な根回しによって、法案Aの賛成が過半数として見積もれていたのだが、どうも直前のファシーズ党の謎の根回しによって、中立である党の議員3名が法案Bに流れてしまったのであった。

 「しかし、基本的に自治区設立自体が廃案にならなかったのは不幸中の幸いだ。また、譲歩条項として、自治区内の1年毎の査察ができるようになったことは成果と言える」クラウスはフランツの目を見つめ言葉を続けた。「査察団のメンバには君にも加わってもらわないとな、フランツ!」 

 「分かりました、クラウスさん」フランツはそう答えながら、ふと前方を見ると、今、席を立つ軍服姿のブルクハルト王子と突然目が合い、2秒程見つめ合ってしまった。

物語ブルクハルト王子smallC.jpg

 王子はフランツに向けて微妙にほほ笑んだが、やがて目を伏せると他のファシーズ党議員とともに会議室を出て行った。

(...私のことを知っているような素振りだった...なぜ?...)フランツは思った。(...それにしても、王子が突然ファシーズ党員になるとは!...しかもいつからなんだ?)
 今朝、突然の、ファシーズ党の基本的な自治区設立の容認と、今まで中道を保っていた王族の若き王子のファシーズ党入り...謎は深まるばかりであった。 

........ 

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青い炎と人形の物語 第4章その2 [球体関節人形製作]

 てぃねこ@ハニたろべネコです。
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。

「青い炎と人形の物語」の第4章の続きです。

 窓の外のコウモリは一体何なのか? 謎は深まっていきます。
それでは、物語を続きをどうぞ。

第4章  自治区(その2) 

 自治区設立法案の補足説明資料が何とか出来上がったのは午前3時の少し前であった。

 「あーぁあ、眠いー」カーヤはフランツが残る部屋を出ると、思わず伸びをした。
 廊下はあまり照明が無く、薄暗かったので、カーヤは少し足早に、階段を使い階下に降り部屋に向かった。
 突然、部屋の手前10mでカーヤはぎくりとして立ち止まった。
 (部屋の前に誰かいる!!) 

 ...しかし、よく見ると、それは中年くらいの女で、服装からホテルのハウスキーパーと思われた。

 彼女はカーヤの方に向くと、手に持ったハンガーにかかった服を示した。
 「カーヤ様ですね。クリーニングが仕上がりましたのでお持ちしました。フランツ様の分もあります」

 カーヤはホッとすると同時に、不思議に思い聞いた。
 「確か明日の朝、いえ、もう今日ですが、7時くらいにと伝えたと思うのですが...?」

 「ええ、そう伺ってはおりましたけれど、お急ぎのようでしたので、お二人とも起きていらっしゃればと思いお持ちしました」
 「あ、そうですか、それじゃ、受取ります」カーヤは自分の分を受け取ったが、ついでにフランツの分も受け取ろうとした。「あ、じゃあ、フランツの分も私が...」

 すると、ハウスキーパーの女は慌てて言った。「いえいえ、上の階ですし、お荷物になりますので私がお持ちします」そして、彼女は付け加えた。「あ、それからカーヤ様、連泊のお客様にはホテルのオーナーからのプレゼントがあります」

 そう言って女はショルダーポシェットからこぶし大の何かを取り出して、カーヤに手渡した。
「ラッシア国の旅のお守り人形で、マトリューシアと言うものだそうです。それでは、おやすみなさいませ、カーヤ様」
そう言い残すとハウスキーパーの女は階段を上っていった。

「...マトリューシアね、聞いたことあるけど本物は初めてだわ」カーヤは左手の中の梨のような形をした奇妙な人形を見つめた。
(...何か妙な感じが...)カーヤがそう思った次の瞬間に、今度は妙にその人形が可愛らしく思えてきた。
(...割と可愛い人形ね)彼女は右手のハンガーをドアノブに掛けて、カーディガンのポケットから部屋のカギを取り出し、ドアを開け部屋の中に入っていった。 

........ 

 カーヤの1つ上の階のフランツもベッドに入ろうかという間際にクリーニングに出した服と奇妙な人形を受け取っていた。

(...マトリューシアか、聞いたことはあるが本物を見るのは初めてだ...しかし、何か妙だな...)フランツもそう思ったのだが、やはり次の瞬間には、妙にその人形が可愛らしく思えてきた。

(...旅のお守りか...そういえば、マリーは、また人形のスージーと寝ているのだろうか?...あの人形も何か愛しいものを感じるんだよな...何故だろう?...まあ、マリーは、今夜もアガーテさんが一緒だから心配はないだろう...)
 フランツは大きくあくびをすると、ハンガーを壁のフックに掛け、梨の形の人形をベッドの横のサイドテーブルに乗せ、目覚まし時計をセットすると同時にベッドに倒れこんだ。

(おやすみ、マリー。良い夢を見るんだよ...)と思う間もなくフランツは眠りに落ちていた。 

 ホテルの1階のロビーの大きなレザーソファには、こんな真夜中の時間なのに一人の若い女が腰かけていた。

 まもなく明かりを手に持った中年の女が階段から降りてきた。
 「ザスキア様?」ハウスキーパーの女は小声で話しかけた。

 「...首尾はどうだったの?コローナ?」ザスキアと呼ばれた若い女はソファから立ち上がると、ハウスキーパーに近づいていった。スタイルの良いその姿は、そのボディに見事にフィットした軍服に包まれていた。

物語の鬼人魔女ザスキアCsmall.jpg

 「はい、ご指示の通りにクリーニングの服と人形を手渡してきました」コローナは少々恐れ多いという感じで答えた。

「いつも、ありがとうね、コローナ」ザスキアはコローナの手に数枚の1000マロク札を握らせた。

「これを息子さんの薬代に当てなさい」

「!...ありがとうございます。ザスキア様」コローナが頭を下げると、ザスキアはホテルの入り口の回転ドアに向かいつつ「戸締りをお願い」と言い残した。

 ザスキアがホテルの外に出ると、二人の帝国軍親衛隊員が彼女を出迎えた。「ザスキア少佐殿、お車を用意してあります」

「ちょっと待って!」ザスキアは真っ黒なフォルキスワーグン車の前で立ち止まると空を見上げ、左手を空にかざした。

 すると、それを待っていたかのように彼女の左手に一頭のコウモリがひらりと舞い降りた。

(首尾はどうだった?ウーヴェ?)ザスキアはそのコウモリに思考で尋ねた。
(すべて記憶した)ウーヴェと呼ばれたコウモリは、そう思考で返した。

 それを聞いたザスキアは満足そうにニヤリと微笑み、コウモリを連れたまま車に乗り込んだ。
 そして、真っ黒なフォルキスワーグン車は低いエンジン音でホテルの前から走り去っていった。

........

to be continued...  
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青い炎と人形の物語 第4章その1 [球体関節人形製作]

てぃねこ@ハニたろべネコです。
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。

 いよいよ「青い炎と人形の物語」の第4章です。
 第4章は場面が大きく変わります。自治区の設立とは何なのか?
 それでは、物語をどうぞ。

第4章  自治区(その1)

 帝国議員と軍のお偉方に発表する書類を作る期限は、翌朝の9時だった。
 「こりゃ、今夜は徹夜かな?」男はタイプライターを前にして頭を抱えた。
 そう言いながら男は机の上にある煙草に手を伸ばしたが、また引っ込めた。
 「娘にタバコ臭いとは言われたくはないが、、、今は、、、やむを得まい!」男はオイルライターで煙草に火をつけて、スゥーッと一息吸い込んだ。
 ハァーッと大きく煙を吐き、男はやや落ち着いた。
 コンコンと部屋のドアがノックされ、一人の若い女が左手にコーヒーのポットと、右手にほうろうのコップを2つ持ちながら、右足でドアを蹴り押して入ってきた。

 「あら、フランツ先生、また煙草吸ってるの?」女は開口一番そう言った。
 「せっかく眠気覚ましにコーヒーを持ってきたのに」

 「あぁ、カーヤ、どうしてもいいアイディアが浮かばないんで」フランツと呼ばれた男はそう答えて、決まり悪そうに椅子を回転させて女の方を向いた。

物語画像フランツC.jpg

 「自治区設立の法案に関する補足説明資料の作成の件でしょ?」カーヤはそう言いながら、ポットとコップを机の上に置き、熱いコーヒーを二人分コップに注いだ。
 香ばしい薫りに目を細めながら、二人はコーヒーを一口すすった。

 「自治区内の各族を表記する名称なんだが、」二口目のコーヒーをすすりながらフランツは言った。
「各族の歴史的背景から抽出しようとしたけれど、どうもうまく表現できるような名称が出てこなくてね」

 「各族の代表者からの手紙には何て書いてあったの?」カーヤも二口目のコーヒーをすすりながら尋ねた。

 「代表者と言っても、各一族の中で大きく2つの派閥があって、それぞれの代表者からの提案があるんだ。」フランツは心の中の葛藤を吐露するように熱を帯びて語り始めた。

「片方の代表者は各族の居住地付近の地名を使った無難な名称なんだけれど、もう片方の代表者からは一族の真実の姿をあからさまに表現するような名称になっているんだ。しかも前者は最終的な命名をこちらに委ねているのだけれど、後者は名称については基本的に譲れないと言ってきているんだ」

「後者の名称は例えば何なの?」カーヤは興味をそそられて尋ねた。
「ヘクセン族かな、あと2つの族は、それぞれヴォルフォン族、デリモン族という名称さ」やや渋い顔をしてフランツは答えた。
「まぁ、ほとんど、そのまんまの名称ね」カーヤは驚いて言った。「それじゃ法案を審議するときに、もめ事が起きそうね」

「確かにそうなる。ファシーズ党派の議員、軍の将校、司教が法案通過の邪魔をするだろうな」フランツはますます渋い顔をして続けた。「そこで、各族の穏健派の前者が一族の多数を占めることから、自治区設立時の法令に従って、名称は法案の提出者に委ねられて、そのお鉢が僕に回ってきたという訳なんだがね」
「今までの経緯からそうなると思うけど...ある意味、責任重大ね」カーヤはぼやくように言った。

「ああ、かと言って前者の居住地付近の名称では、自ずと自治区の範囲を狭めてしまうから、別の名称にする必要があるのさ」フランツはそう言うと残りのコーヒーを半分ほど飲み干して続けた。
「しかし、不思議なのは、各族には確かに2つの派閥があるけれど、自治区設立は共通の悲願であったはずなんだ。それをわざわざ困難にしようというのは...何か裏があるんじゃないだろうか?」
「うーん、確かにそうね。何かしらね?」カーヤも首をひねったが、続けてフランツが驚くようなことを口にした。
「自治区設立の法案の提出が否決されたことを盾に、何か行動を起こすとか?」

物語のカーヤC.jpg

「え?!まさか、、、ここまで来て、そんなことは、、、」フランツはそこまで言って、思わず黙り込んだ。
(まさか、ルイーゼの姉のリーゼの計略が、そこまで具体的に進んでいる?、、、いや、そんな兆しは、今まで全く感じられなかったが、、、しかも、どうやって?)

 フランツの少々青ざめた顔を見て、カーヤは少し明るく言った。「まぁ、私も手伝うから、いい名称を見つけましょうよ。ねぇ、フランツ先生」
 その言葉にフランツは少し決まりが悪そうに返した。「確かにゼミでは、僕は先生だけど、君もゼミの研究室のブレインだから、ほぼ先生だよ」
「じゃあ、先生同士のディスカッションといきましょうか?」カーヤの言葉にフランツも頷き、二人は補足説明資料の作成に没頭していった。

......

 二人がいるホテルの部屋には小さな窓があり、今は厚手のカーテンで外の冷気をさえぎっていたが、窓の外の棧では、一匹のコウモリがじっと中の様子を伺っていた。


........
to be continued...



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