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青い炎と人形の物語 エピローグ [球体関節人形製作]

 
 デイテュラント帝国東部のシュベルトの町で起きた軍事侵攻の事件については、その後、政府による調査、新聞記者の取材、元ゲリマンの爪の将校に対する聞き取り等で、事の真相が次第に明らかになり、デイテュラント帝国を危機から救った魔女族、鬼人族、狼人族への関心や畏敬の念が高まり、新法案にて正式に自治区として独立することとなった。
 もちろんデイテュラント帝国の中には反対する人々もわずかにはいたのだが...

 また、今回の事件で、マリーは結局その素性を明らかにすることはなかったので、マリー個人の名前が表に出ることはなかった。

 ところで、マリーとラウラの精神体は軍事侵攻が終わった12日の昼には故郷のヴィルレーデ村に戻ったが、精神と肉体に対する極端な負担のためにラウラの身体は回復するのに1週間近くかかってしまった。

 また、これは後の話であるが、帝国陸軍本部で精神体を入れ替えさせられた鬼人族の女と、元ゲリマンの爪の人族の男は、マリーの力によって無事に精神体を元に戻すことができた。

 ところで、ヴィルレーデ村近くの森の館の魔女リーゼは、姉リーゼの魂と妹ルイーゼの魂が自然と融合していって1つの人格を持つに至り、その後マリーと和解し、その保護者と経済的な支援者となったが、普段の生活や教育はラウラに任せることとした。

 また、ブルクハルト王子はデイテュラント帝国東部の新しい自治区の長《おさ》となり、鬼人族のザスキアと夫婦となった。
 そして、フランツとカーヤは自治区に残り、それぞれ自治区の重要なポストに就き、自治区の運営のために奔走することとなった。

___そして、マリーは以前と同様にヴィルレーデ村のエレメンタリ・スクールに通う道を選んだ。

(『また、自治区に危機が訪れることがあったら連絡して!すぐに駆け付けるから』)
 マリーはレオンとレオナにそう言った。
 レオナは少し不服そうであったが、最後にはレオンと共に三人で手を組み約束を交わした。

 狼人族のエルケやダークはあいかわらずリーゼの館で働いていたが、時々ラウラの家に来てはマリーの世話をいろいろと焼いてくれた。

******

 今日は12月19日、クリスマス休暇が始まる1日前、身体が回復し、友達のゲルデとクラウスの二人と再び登校したマリーは、そこで鬼人族の同級生のザーラと固い握手を交わした。

 デイテュラント帝国を敵国からの侵略から守った魔女族、鬼人族、狼人族に関する大々的な報道により、皆、その素性を明らかにしても差別を受けることはなくなった___
 少なくともこのヴィルレーデ村においてはそうであった。

「明日からクリスマス休暇ね!24日に私たち子供達だけでクリスマスパーティをやりましょうよ!」
ゲルデが楽しそうに提案し、クラウス、ザーラ、マリーも賛成した。

 そして、マリーは思った。

(この平穏な状態はいつまでも続くものではないでしょう...不満の種はこの国のどこにもあるし、また他の国からの侵略もあるでしょうから...でも、そんなことが起こったら、またできうる限りのことをして平和を目指していけばいいのだから...)


...Das Ende.



<作者あとがき>

 この「青い炎を人形の物語」も当初は一種の童話のような形のものを想定していましたが、こうしてラストを迎えると、かなりシリアスな内容の作品となってしまいました。
 そして、ここまでおつきあい頂いた読者の皆様に感謝申し上げます!
 本当にありがとうございました!

p.s.次週からは「花の妖精フローラ」シリーズ(恋愛モノ)の連載を始めます。
  お時間ありましたら、またおつきあい下さい!


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青い炎と人形の物語 第10章 一か八かの計画 その3 [球体関節人形製作]

 突然の砲撃が始まったのは12日の未明のことであった。

 デイテュラント帝国陸軍の戦車中隊がシュベルトの町へ続く道への進行を開始するのは12日の夜明けの命令であったが、それよりもわずかに早くボルソーカ国とラッシア国の連合戦車大隊は動き始めたのである。

 ラッシア国のタル34戦車の大砲塔からの砲撃は国境線をまたいで、デイテュラント帝国陸軍のパンサー戦車に浴びせられ、中隊は大混乱に陥った。
 また、タル12対戦車砲からの砲弾が垂直に近い着弾により、パンサー戦車の上部ハッチの薄い装甲を貫通し爆裂し、何台もの戦車が戦闘不能となった。

 ボルソーカ国とラッシア国の連合戦車大隊はそのまま国境線を越え、デイテュラント帝国内に侵入し、そのままシュベルトの町へと侵攻を開始した。

 この事態に驚いたデイテュラント帝国陸軍のクッシュ中佐はすぐさまヘルフリート少将に連絡を取り指示を仰いだ。
 ヘルフリート少将はシュベルトの町の西部に待機させていた戦車中隊を急ぎ進軍させ、追加で本隊である[ゲリマンの爪]大隊と[ゲリマンの爪]航空部隊の戦闘機を何機か発進させた。

 そうして両軍が激突するまさにその直前に、大いなる光の繭《まゆ》が両戦車大隊を包んだ__

******

「おいっ!前方に人の群れが並んで立っているぞ!」
大隊の戦闘を進行するラッシア国タル34戦車の双眼鏡を見ていたひとりの兵士が突然叫び、その会話は無線で他の戦車にもすぐに伝わった。

「いや!道の左右にもいるぞ!...こ、この人達は!」
 後ろに付く十数台の戦車からも同様の連絡が入った。

「あれは、、、3年前に死んだ母親じゃないか!」
「去年、亡くなった兄貴だ!」
「なんてこった!5歳のとき病気で亡くなった息子が立っている!」


 戦車の兵士は皆一人残らず自分の死んだ身内がいることを確認していた。

『...このデイテュラント国の東部地方は、私たち亡者たちの安住の地バルハラなのだよ。どうか後生だから、この地を荒らさないでおくれ、お前もお前の子供たちもいずれは、この地に来ることになるのだから...』
 この言葉がそれぞれの亡者から、それぞれの生きている身内の兵士に伝えられた。

 ___そして、同じことは、ラッシア国の首都モルダワにあるコラムレーン宮殿の指令室で待機していたスタルン総司令にも起きていた。

 総司令の目の前に十数人もの死んだ身内、父母、祖父母、いとこ、友人...皆、同様のことを口々に伝えてきた。

 さすがのスタルン総司令もこの状況には心臓が飛び出るほど驚愕し、床にひれ伏してしまった。

「スタルン総司令! 国境線の大隊からの報告があります!、、、私も見たのですが、、、亡くなった親族や友人が攻撃をやめてくれと訴えてきています!」
 指令室に飛び込んできたロプコフ大佐が叫んだ。

「わかった!もう、わかった!許してくれ!...これは命令だ!大隊を撤退させろ!いますぐにだ!」
 スタルンは床にひれ伏しながらロプコフ大佐にそう伝えた。

******

 それから、30分もせずに、ボルソーカ国とラッシア国の連合戦車大隊は侵攻してきた道をそのまま引き返していった。

 デイテュラント帝国の西部から進軍を開始していた戦車中隊、陸軍本部に来ていた[ゲリマンの爪]のヘルフリート少将、そのほかの将校にも敵軍と同様のことが起きていた。

 そして、彼ら将校に対してマリーの精神感応の放送が伝えられた。

『私たち魔女族、鬼人族、狼人族が協力して、ボルソーカ国とラッシア国の軍隊を退けさせました...
私たちはこれ以上の戦いは望んではいません。すべての兵を引き上げて、このデイテュラント帝国東部の地域を自治国として不可侵条約を締結してください』

「...」ヘルフリート少将は、この現象の原因が魔女達が作りだした魔法であることを理解したが、ボルソーカ国とラッシア国の連合戦車大隊をデイテュラント帝国から撤退させたその途方もない力に、ある意味、畏敬の念を抱くこととなった。

「われわれ[ゲリマンの爪]は本日を持って解散する...皆、自身のそれぞれの職場で責務を全うしてくれ、以上だ!」
 ヘルフリート少将は将校達に伝え、命令はその日のうちに末端まで伝わり、[ゲリマンの爪]はその存在を消滅させていった。

 当然、シュベルトの町の西部に駐留していた戦車中隊も撤退していった。

...to be continued.

p.s.次回はいよいよ最終回です。

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青い炎と人形の物語 第10章 一か八かの計画 その2 [球体関節人形製作]

 
 ラッシア国の首都モルダワにあるコラムレーン宮殿の指令室(王の部屋)で、スタルン総司令は、同盟国であるボルソーカ国の国境線に近い領域で、陸軍の戦車部隊を展開させているデイテュラント国の行動の真意を測りかねていた。

(ボルソーカ国国境線にいる我国の戦車部隊からの連絡によれば、デイテュラント国の戦車部隊は自国の方向に砲塔を向けているというが...ボルソーカ国の国境線を超えて侵攻するつもりは無いのか?)
 スタルン総司令が思考を巡らしていると、部屋のドアがノックされた。

「スタルン総司令殿。ロプコフです。お伝えしたいことがあります」

「入り給え。ロプコフ大佐」

 ドアが開かれ、軍服姿の男が入ってきた。
 当然、ドアの左右にはスタルンお抱えの護衛の兵士が立っているのである。

「スタルン総司令殿。デイテュラント国に潜入しているカグベ特殊工作員からの連絡です」
 ロプコフは連絡を続けた。

「デイテュラント国の戦車部隊の目的は、自国の北東部の民族に対する制圧、つまり内戦の開始であるとの連絡がありました」

「なるほど...内戦の勃発か」
 そのときスタルンの頭の中で、自国の戦車部隊が内戦に乗じてデイテュラント国へと侵攻を開始し、デイテュラント国東部を制圧する映像がありありと浮かび、このタイミングで軍事作戦を遂行すべきだとの思いが頭の中を支配し始めた。

「よし、内戦の開始に乗じて国境線を超えてボルソーカ国の戦車部隊を侵攻させるのだ」
 スタルンは大佐に命令を下した。

「はっ。かしこまりました」
 ロプコフ大佐は命令を伝えるために部屋を出て行った。

 このとき、指令室の空中に浮かんでいたほぼ透明に近い姿の一人の少女の力により、スタルンが最終決断をしたことに気づく者はいなかった。

******

 そのころ、デイテュラント国の東の端のシュベルトの町のはずれにある古いホテルの一室では夜遅くであるにも関わらず、奇妙な会談が行われていた。

 二人は生身の体の子供で少年と少女であり、もう一人は凛々しい顔立ちの軍服の青年、そして,,,もう一人は老婆であったが、その姿はほぼ透明に近かった。

 二人の子供は1つのソファ、残り二人の大人は別々のソファに座り向かい合っていた。

「ラウラさん。それがあなたの計画なのですね?」
 軍服の青年が言った。

『そのです。ブルクハルト王子。それが長い目で見たときに最も損害が少ない選択でしょう』
 精神体だけの状態で、魔女のラウラはテレパシーで言葉を伝えた。

「住民は明日の昼までにひそかに町を脱出させて、彼ら兄妹や魔女達は残って作戦に協力すると...本当にこれで自治区設立が確かなものになって、鬼人族、狼人族、魔女族が安心して暮らせる土地になると言うんですか?」
 ブルクハルトはラウラを鋭い眼光で見た。

『確実にそうなるとは言えませんね。しかし、このまま帝国陸軍と対峙する方向では、内戦がエスカレートして犠牲者が増えるばかりで、自治区設立などは水泡と帰すことでしょう』
 ラウラはブルクハルトにそう言った後に魔の帝王と女王のレオンとレオナを見た。

「ラウラさん...確かに僕たちも好き好んで内戦をする気はないですよ。ただ降りかかってくる火の粉は払わなければならないので...分かりました。あなたの言う計画に乗りましょう」
 レオンはそう言うとレオナの方を見た。
「レオナもそれでいいかい?」

「...私はレオン兄さんの言うことに従うわ」
 とレオナ。

「ブルクハルト王子」レオンは言った。
「魔女も含めた僕たちは、ラウラさんの計画に乗りますよ」

「...わかった。レオン君。君らがそう言うのであれば、そうしよう」
 ブルクハルトも決断した。

『これで決まりだね...それじゃあ、あとは手はず通りに頼みます...ところで、疲れたので私は少し休みますよ』
 ラウラはそこまで言うと精神体からテレパシーを送るのをいったんやめて精神体の目を閉じて休息の状態となった。

 今までに、これだけ遠隔で精神体だけで行動したことはラウラも無く、その元の肉体や精神はかなりの負担を強いられていた。

 レオンとレオナは少しの間、その様子を見ていたが、すぐに配下の魔女達にテレパシーで指示を出した。

 こうして、11日の未明から朝方にかけてシュベルトの町の住民は簡単な荷物をまとめると、すべて徒歩や馬車に乗ってひそかに町を脱出し、北の方角へと避難を開始することとなった。

 ただ、ブルクハルト王子を含む視察団一行はレオン、レオナや魔女達とともに町の中央にある公民館に移動して、町に残る選択をした。
「どういった事態になったとしても、今回の首謀者である我々が町を離れる訳にはいかないのでね」
 というのがブルクハルトの出した結論であった。

 そして、普通魔法《まやかし》を見せられている視察団一行も、ブルクハルトと共に移動し、フランツとカーヤも人質として連れていかれたのである。


...to be continued.



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青い炎と人形の物語 第10章 一か八かの計画 その1 [球体関節人形製作]

 
 師匠のラウラが提案した計画は大きなリスクを伴うもので、確かにある程度の人の犠牲が予想された。
 だが、現状のまま、魔女族、鬼人族、狼人族と帝国陸軍との間で内戦が勃発すれば双方の死傷者の数は比べ物にならない程増え、最終的に魔女族、鬼人族、狼人族の大量虐殺に至る可能性もある。

 マリーは、ラウラの計画の詳細の是非を一つ一つ確認し、納得するに至った。

「わかりました。師匠」
 ついにマリーは決断した。

「そうと決めたら、また私は飛ばなければなりません」
 マリーは強い意志でラウラとエルケにそう伝えた。

「マリー」
 ラウラは自分で提案した計画であったが、かなりの後ろめたさを感じていた。

「すべての事の成り行きをお前の力に任せてしまうことになる」
 ラウラは言葉を続けた。
「もしかすると、私の命だけでなく、お前の命も危うくなるかもしれん。私にできることは多くはないが、できる限りのことはしてみよう...やってくれるか?」

「はい、師匠」
 とマリー。
「きっと、これも私の運命なのだと思います」

 ラウラは一時《いっとき》マリーの目を見つめ、そしてベッドから離れ、厳重に鍵を掛けた戸棚を開けて、中から2本のガラス瓶を取り出してきた。

 ガラス瓶の中には琥珀色の液体が入っており、何か煌めく細かな粒子がゆらゆらと瓶の中で揺れていた。

「これは、お前が眠っている間に、また新しく調合したものだよ」
 ラウラはガラス瓶を部屋の明かりのランプにかざした。
「とんでもなく効果のある滋養強壮剤だが、副作用もある...効果が続く3日間は飲まず食わずでも大丈夫だが、その期間が終わった後の反動も大きい...下手をすると廃人同様になってしまうかもしれん...」

「...師匠!そうだとしても覚悟はできています!」
 マリーは目に強い命の光を宿して答えた。

「それでは、まずは乾杯じゃ。残さず飲むように」
 ラウラはマリーに瓶を手渡し、チンと軽く瓶同士をぶつけると自分のベッドに座り込み、ゆっくりと瓶の中身を飲み干した。

 マリーもラウラに倣い、瓶の中身を3回くらいに分けて飲み干すと、こちらは自分のベッドの上にあおむけに倒れこんだ。

「では...行くとするかの?...マリー。道案内を頼んだぞ。それから...エルケ?」

「はい。ラウラさん、分かっています。二人の精神が旅に出ている間は、私が残った二人の身体をお守りします」
 エルケは片膝を床について固く約束した。

「それでは...よろしく頼む」
 ラウラもベッドの上にあおむけになって目を閉じ、何か呪文を唱え始め、やがてラウラの精神体の大部分が彼女が寝ている上に現れた。

 マリーの精神体は、すでにあおむけに寝ている彼女自身の上に出現しており、自身の身体の上に爪先立ちで立っていた。

「行きますよ!師匠!」
 マリーはその薄青い精神体の左手を伸ばし、ラウラの精神体の右手を掴むと、一気に家の壁を通り抜けていった。

 エルケが窓からその姿を追うと、二人の精神体は青白く輝いており、まるで大天使のように見えた。
 そして、大天使の二人は一気に加速すると、夜の闇の中に消えていった。

...to be continued.



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