青い炎と人形の物語 第5章 その5 [球体関節人形製作]
てぃねこ@ハニたろべネコです。
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。
「青い炎と人形の物語」の第5章の続きです。
それでは、どうぞ。
第5章 マリーの覚悟 その5
また会えた嬉しさに、ラウラの家へと向かうソリの上で、マリーとエルケは四方山話を咲かせていた。
「ねぇ、エルケ、今は冬だから、狼...いえ犬ゾリだけど、春になったらどうするの?」とマリー。
「ロバの馬車を使うのよ、マリー」とエルケは返す。
「ねぇ、じゃあ、その間は、この狼さん...いえ犬さん達は何をしているの?」マリーは次々と質問した。
マリーの横でソリを操るエルケは少しばかりニヤリと笑い答えた。
「そうねぇ、何をしてもらおうかしら?」
「えーっ、何もすることが無いの?」マリーは矢継ぎ早に返す。
「アハハ、本当はやることがあるの、まず猟犬としての仕事、リーゼ様がお客様と一緒に鹿やウサギ狩りに行くときが出番よ」エルケは答えた。
「もー、エルケは」マリーは少々ブスッとしたが、すぐに質問をぶつけてきた。「えー、でもお客様が、猟犬が狼だったら驚くんじゃない?」
「狼だって承知しているお客様でも、全く知らないお客様でも、リーゼ様の〈偽装の魔法〉で、見た目は体格の良い犬に見せているわ...実は今もこの四頭は魔法がかかっているけれど、マリー、あなたには狼の姿に見えるのね?」エルケは感心の目でマリーを見て言った。
「うん、魔法がかかっているのも分かるし、それでも狼に見える」そう言うマリーの青い瞳はキラリと光った。
「ねぇ、エルケもダークみたいに狼に変われるの?」
マリーの無邪気な質問にエルケは少々困り眉間にシワを寄せたが、すぐに優しくおどけて返した。
「そうよー、狼になって、マリーを食べちゃいますよー!」
「ううん、エルケはそんなことはしない」マリーはエルケの瞳を見つめて言った。
(これは、魔法のフィールド?)エルケはマリーから流れ込んでくる暖かな熱を実際に肌で感じていた。
「今日は雪は止んでいるけれど、日中の気温はかなり低いわ...でも、暖かいのは、マリー、あなたがやっているの?」
「うん、ソリの上は風も当たって寒いから、暖かい羽毛のイメージで包んでいるの」マリーは事も無げにそう答えた。
「この魔法はママから習ったの?」とエルケ。
「ううん、習ってない、なんだか、このあいだの夜からできるようになった」マリーは例の夜の出来事を思い出して言った。
(!...)エルケもその出来事を思い出すと同時に、改めてマリーの覚醒した魔法の力に驚いた。
「マリー」エルケは静かに語りだした。
「私たち狼人は、あなたたち魔女族よりも世の中から隠れて生きてきたし、今でも隠れて生きなければならないの。何故だか分かる?」エルケの問いかけにマリーはかぶりを振った。
「私たちが人と狼の間で変わることは、そんなに思い通りにはできないの。兄のダークのように1時間くらいの短い時間で変化できる者もいれば、1日以上の時間をかけないと変化が完了できない者もいるわ。私も3時間くらいはかかるの」エルケは続けた。
「そして大きな問題は2つ、1つは変化が始まったら途中で戻すことができないことと、もう1つは...」エルケは少し言いよどんだ。
「大きな感情や感覚に揺さぶられたときに、変化の意志がなくても勝手に変化が始まってしまうことがあるの...これは、マリーがもう少し大人になれば分かってくる話なんだけど。男と女が、身体が大人になる中で経験することで起こるの」
マリーは思わずそれは何?と聞こうとしたが、すぐにその意味するところが分ったので質問をやめ軽くうなづいた。
「...そういうことがあると普通の人間の社会の中で暮らしていくのは無理でしょ?あ、それから女の場合は赤ちゃんを産むときには100%そうなるわ」エルケはそこで一旦言葉を切った。
思ったよりもはるかに深刻な話になり、マリーは思わず黙り込んでしまった。
「...そんな訳で」エルケは続けた。「私たち狼人は、理解のある魔女や鬼人、そしてごく一部の理解ある人間の協力を得て、ひっそりと人間社会の片隅で隠れるようにして生きているの。でも...」
エルケは息を吸い込み、やや張りのある声で言った。
「今、リーゼ様は私たち狼人、魔女、鬼人が安心して暮らしていける大きな計画をもって動き始めているわ!」
最後にエルケは少し顔を上げ、青い空を見上げた。
「大きな計画って?」マリーはそこで質問した。
エルケはちょっと絶句したが続けた。
「ごめんなさい。話過ぎたかも。大きな計画のことは本当は秘密で言えないの...私がしゃべったことはリーゼ様に内緒にしてくれる?」
「うん、わかった、秘密にしておく」マリーは素直にうなづいた。
しかし心の中ではこうも思っていた。
(...リーゼ伯母様とママが別れて暮らし始めたことと何か関係があるのかな?なんだろう?)
そこからあとは、またマリーとエルケは他愛もないおしゃべりを始めたが、やがてソリは森のはずれの1建の古い小さな家の前に着いた。
「着いたわ、ここがラウラおばさんの家よ。マリーは初めてかしら?」エルケは先にソリから降り、マリーが降りるのを手伝った。
「ううん、ママがまだ家にいたときに一度と、ママが亡くなってから一度、私の家で会ったことがあるけど、ここに来るのは初めて」マリーは興味津々で謎の小さな家の扉を見つめた。
エルケが扉をノックし、中からやや年のいった女が顔を出した。
「おや、エルケかい、それと...まぁ、大きくなったね!マリーだね!」
「こんにちは、ラウラおばさん!」マリーの元気なあいさつに、瞬間ムッとしたラウラだったが、すぐに機嫌をとり直して続けた。
「さあ、外は寒いから中にお入り」
マリーとエルケは小さな家の中に入って行った。
to be continued...
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。
「青い炎と人形の物語」の第5章の続きです。
それでは、どうぞ。
第5章 マリーの覚悟 その5
また会えた嬉しさに、ラウラの家へと向かうソリの上で、マリーとエルケは四方山話を咲かせていた。
「ねぇ、エルケ、今は冬だから、狼...いえ犬ゾリだけど、春になったらどうするの?」とマリー。
「ロバの馬車を使うのよ、マリー」とエルケは返す。
「ねぇ、じゃあ、その間は、この狼さん...いえ犬さん達は何をしているの?」マリーは次々と質問した。
マリーの横でソリを操るエルケは少しばかりニヤリと笑い答えた。
「そうねぇ、何をしてもらおうかしら?」
「えーっ、何もすることが無いの?」マリーは矢継ぎ早に返す。
「アハハ、本当はやることがあるの、まず猟犬としての仕事、リーゼ様がお客様と一緒に鹿やウサギ狩りに行くときが出番よ」エルケは答えた。
「もー、エルケは」マリーは少々ブスッとしたが、すぐに質問をぶつけてきた。「えー、でもお客様が、猟犬が狼だったら驚くんじゃない?」
「狼だって承知しているお客様でも、全く知らないお客様でも、リーゼ様の〈偽装の魔法〉で、見た目は体格の良い犬に見せているわ...実は今もこの四頭は魔法がかかっているけれど、マリー、あなたには狼の姿に見えるのね?」エルケは感心の目でマリーを見て言った。
「うん、魔法がかかっているのも分かるし、それでも狼に見える」そう言うマリーの青い瞳はキラリと光った。
「ねぇ、エルケもダークみたいに狼に変われるの?」
マリーの無邪気な質問にエルケは少々困り眉間にシワを寄せたが、すぐに優しくおどけて返した。
「そうよー、狼になって、マリーを食べちゃいますよー!」
「ううん、エルケはそんなことはしない」マリーはエルケの瞳を見つめて言った。
(これは、魔法のフィールド?)エルケはマリーから流れ込んでくる暖かな熱を実際に肌で感じていた。
「今日は雪は止んでいるけれど、日中の気温はかなり低いわ...でも、暖かいのは、マリー、あなたがやっているの?」
「うん、ソリの上は風も当たって寒いから、暖かい羽毛のイメージで包んでいるの」マリーは事も無げにそう答えた。
「この魔法はママから習ったの?」とエルケ。
「ううん、習ってない、なんだか、このあいだの夜からできるようになった」マリーは例の夜の出来事を思い出して言った。
(!...)エルケもその出来事を思い出すと同時に、改めてマリーの覚醒した魔法の力に驚いた。
「マリー」エルケは静かに語りだした。
「私たち狼人は、あなたたち魔女族よりも世の中から隠れて生きてきたし、今でも隠れて生きなければならないの。何故だか分かる?」エルケの問いかけにマリーはかぶりを振った。
「私たちが人と狼の間で変わることは、そんなに思い通りにはできないの。兄のダークのように1時間くらいの短い時間で変化できる者もいれば、1日以上の時間をかけないと変化が完了できない者もいるわ。私も3時間くらいはかかるの」エルケは続けた。
「そして大きな問題は2つ、1つは変化が始まったら途中で戻すことができないことと、もう1つは...」エルケは少し言いよどんだ。
「大きな感情や感覚に揺さぶられたときに、変化の意志がなくても勝手に変化が始まってしまうことがあるの...これは、マリーがもう少し大人になれば分かってくる話なんだけど。男と女が、身体が大人になる中で経験することで起こるの」
マリーは思わずそれは何?と聞こうとしたが、すぐにその意味するところが分ったので質問をやめ軽くうなづいた。
「...そういうことがあると普通の人間の社会の中で暮らしていくのは無理でしょ?あ、それから女の場合は赤ちゃんを産むときには100%そうなるわ」エルケはそこで一旦言葉を切った。
思ったよりもはるかに深刻な話になり、マリーは思わず黙り込んでしまった。
「...そんな訳で」エルケは続けた。「私たち狼人は、理解のある魔女や鬼人、そしてごく一部の理解ある人間の協力を得て、ひっそりと人間社会の片隅で隠れるようにして生きているの。でも...」
エルケは息を吸い込み、やや張りのある声で言った。
「今、リーゼ様は私たち狼人、魔女、鬼人が安心して暮らしていける大きな計画をもって動き始めているわ!」
最後にエルケは少し顔を上げ、青い空を見上げた。
「大きな計画って?」マリーはそこで質問した。
エルケはちょっと絶句したが続けた。
「ごめんなさい。話過ぎたかも。大きな計画のことは本当は秘密で言えないの...私がしゃべったことはリーゼ様に内緒にしてくれる?」
「うん、わかった、秘密にしておく」マリーは素直にうなづいた。
しかし心の中ではこうも思っていた。
(...リーゼ伯母様とママが別れて暮らし始めたことと何か関係があるのかな?なんだろう?)
そこからあとは、またマリーとエルケは他愛もないおしゃべりを始めたが、やがてソリは森のはずれの1建の古い小さな家の前に着いた。
「着いたわ、ここがラウラおばさんの家よ。マリーは初めてかしら?」エルケは先にソリから降り、マリーが降りるのを手伝った。
「ううん、ママがまだ家にいたときに一度と、ママが亡くなってから一度、私の家で会ったことがあるけど、ここに来るのは初めて」マリーは興味津々で謎の小さな家の扉を見つめた。
エルケが扉をノックし、中からやや年のいった女が顔を出した。
「おや、エルケかい、それと...まぁ、大きくなったね!マリーだね!」
「こんにちは、ラウラおばさん!」マリーの元気なあいさつに、瞬間ムッとしたラウラだったが、すぐに機嫌をとり直して続けた。
「さあ、外は寒いから中にお入り」
マリーとエルケは小さな家の中に入って行った。
to be continued...
青い炎と人形の物語 第5章 その4 [球体関節人形製作]
こんばんは、てぃねこ@ハニたろべねこです。
毎週、金曜夜の更新です。
新しく転校してきた少女は何者なのか...?
魔法の力に覚醒したマリーとの関係は...?
それでは、続きをどうぞ。
第5章 マリーの覚悟 その4
1時限目のホームルームが終わると、4年生のクラスの生徒は女子を中心に転校生の周りにワッと集まった。
4年生は全員集まっても12名...いや今は13名になった。
「ローラントさ...ザーラさんは、どこから来たの?」女子の一人が尋ねる。
「ハンブルスよ。ザーラって呼んでね。パパは医者なんだけれど、転勤になって、この村の診療所に勤めることになったの」
ザーラは微笑みながら静かに答えた。
「あ、そう言えば、診療所の先生がもうお爺ちゃんだから、若い先生が来るってママが言ってた!」おしゃべりのゲルデがすかさず割り込んできた。
「若いといっても、パパは45才だけどね」ザーラは少し歯を見せて笑った。
(犬歯?長い?)
生徒の輪の一番後ろに立っていたマリーは、その事実に気がついた。
「ザーラの犬歯って、長いのねー」輪の一番前のゲルデも目ざとく気付いて、すかさず突っ込みを入れた。
「うん、やんなっちゃうの。歯並びが悪くて。今、町の歯医者で矯正中なの」とザーラ。
「どこの町?」とゲルデ。
「ええ、月に一度、リヨネブルクまで治療で通ってるの」とザーラ。
「ふーん。大変だねー」とゲルデ。
「ハンブルスでは、どこの学校に行ってたの?」と今度は別の女の子が質問する...
...そのとき、マリーの頭の中だけに、聞いたことのある女の子の声が響いてきた。
(...マリー...聞こえる?)
輪の一番後ろにいたマリーは、ザーラが別の子と話している様子を見ていた。
(!?、、、あなた、ザーラ?)マリーは心の声で返す。
(そうよ、マリー。あなたもようやく魔法に目覚めたようね?)
(...なぜ? あなたはそれを知っているの?!)
(ふふ、それは今は秘密。今度話すわ)ザーラは、今度はゲルデと笑いあっていた。
そのとき、2時限目の授業のエトムント先生が教室に入ってきたので、生徒たちは輪を解いて自分の席に着席した。
マリーは窓際の一番後ろ、ザーラは廊下側の一番後ろの席に腰を下ろした。
(...これは! リーゼ伯母さんの差しがねなの?)チラリとザーラの横顔を見やったマリーの思考には、少しばかり怒気が含まれていた。
(もとは、そうであったけど...今は少し違うわ)ザーラは、黒板に書かれた数式を見つつ、そう思考を送った。
(マリー、あなたのことも、私のことも、みんなには秘密だからね)
(そうね、お互い様ね)とマリーは黒板の公式をノートに写す。
(エルケさんのことも聞いているわ。狼人のことは信用しても大丈夫よ)ザーラは、前に座っている女の子からテキストをちょっと借りながら、思考を返す。
(、、、!あなたは、どこまで知ってるの?!)マリーは再び怒気を含んだ思考を送った。
(怒らないでね...マリー、教えてあげるわ。私の役目は、あなたの監視役。そして、私は魔女と鬼人のハーフ。よろしくね)
(!、、、魔女と鬼人の!、、、ハーフ!)マリーは驚き、怒気がどこかに飛んでしまった。
(また、そのうち、ゆっくりと話しましょう)
ザーラはそう締め括ると、思考の伝送路を切ってしまった。
マリーの能力で、無理矢理、思考の伝送を再開することもできたが、ここは怒りを静めてじっくりと考えてみた。
(監視役ね、、、私がリーゼ伯母さんの秘密を探らないように?、、、エルケさんや、ダークは命令に従っているだけ?、、、リーゼ伯母さんには鬼人の部下もいる?、、、そしてザーラのような魔女と鬼人のハーフも?、、、ラウラさんは中立と考えていいの?、、、リーゼ伯母さんが私の魔法の力を欲しがったのは、ママが伯母さんから離れたことと、パパの仕事と何か関係がある?、、、)
様々な事実が少しずつ繋がってきたようだったが、マリーには、まだその全貌が見えては来なかった。
(まずは、ザーラは手強そうだから適度に付き合って、、、エルケさんは信用して、、、ラウラおばさんに相談するのが良さそうね)
マリーは、とりあえず、そう結論を出すと、算数の練習問題を解き始めたのであった...
...to be continued.
毎週、金曜夜の更新です。
新しく転校してきた少女は何者なのか...?
魔法の力に覚醒したマリーとの関係は...?
それでは、続きをどうぞ。
第5章 マリーの覚悟 その4
1時限目のホームルームが終わると、4年生のクラスの生徒は女子を中心に転校生の周りにワッと集まった。
4年生は全員集まっても12名...いや今は13名になった。
「ローラントさ...ザーラさんは、どこから来たの?」女子の一人が尋ねる。
「ハンブルスよ。ザーラって呼んでね。パパは医者なんだけれど、転勤になって、この村の診療所に勤めることになったの」
ザーラは微笑みながら静かに答えた。
「あ、そう言えば、診療所の先生がもうお爺ちゃんだから、若い先生が来るってママが言ってた!」おしゃべりのゲルデがすかさず割り込んできた。
「若いといっても、パパは45才だけどね」ザーラは少し歯を見せて笑った。
(犬歯?長い?)
生徒の輪の一番後ろに立っていたマリーは、その事実に気がついた。
「ザーラの犬歯って、長いのねー」輪の一番前のゲルデも目ざとく気付いて、すかさず突っ込みを入れた。
「うん、やんなっちゃうの。歯並びが悪くて。今、町の歯医者で矯正中なの」とザーラ。
「どこの町?」とゲルデ。
「ええ、月に一度、リヨネブルクまで治療で通ってるの」とザーラ。
「ふーん。大変だねー」とゲルデ。
「ハンブルスでは、どこの学校に行ってたの?」と今度は別の女の子が質問する...
...そのとき、マリーの頭の中だけに、聞いたことのある女の子の声が響いてきた。
(...マリー...聞こえる?)
輪の一番後ろにいたマリーは、ザーラが別の子と話している様子を見ていた。
(!?、、、あなた、ザーラ?)マリーは心の声で返す。
(そうよ、マリー。あなたもようやく魔法に目覚めたようね?)
(...なぜ? あなたはそれを知っているの?!)
(ふふ、それは今は秘密。今度話すわ)ザーラは、今度はゲルデと笑いあっていた。
そのとき、2時限目の授業のエトムント先生が教室に入ってきたので、生徒たちは輪を解いて自分の席に着席した。
マリーは窓際の一番後ろ、ザーラは廊下側の一番後ろの席に腰を下ろした。
(...これは! リーゼ伯母さんの差しがねなの?)チラリとザーラの横顔を見やったマリーの思考には、少しばかり怒気が含まれていた。
(もとは、そうであったけど...今は少し違うわ)ザーラは、黒板に書かれた数式を見つつ、そう思考を送った。
(マリー、あなたのことも、私のことも、みんなには秘密だからね)
(そうね、お互い様ね)とマリーは黒板の公式をノートに写す。
(エルケさんのことも聞いているわ。狼人のことは信用しても大丈夫よ)ザーラは、前に座っている女の子からテキストをちょっと借りながら、思考を返す。
(、、、!あなたは、どこまで知ってるの?!)マリーは再び怒気を含んだ思考を送った。
(怒らないでね...マリー、教えてあげるわ。私の役目は、あなたの監視役。そして、私は魔女と鬼人のハーフ。よろしくね)
(!、、、魔女と鬼人の!、、、ハーフ!)マリーは驚き、怒気がどこかに飛んでしまった。
(また、そのうち、ゆっくりと話しましょう)
ザーラはそう締め括ると、思考の伝送路を切ってしまった。
マリーの能力で、無理矢理、思考の伝送を再開することもできたが、ここは怒りを静めてじっくりと考えてみた。
(監視役ね、、、私がリーゼ伯母さんの秘密を探らないように?、、、エルケさんや、ダークは命令に従っているだけ?、、、リーゼ伯母さんには鬼人の部下もいる?、、、そしてザーラのような魔女と鬼人のハーフも?、、、ラウラさんは中立と考えていいの?、、、リーゼ伯母さんが私の魔法の力を欲しがったのは、ママが伯母さんから離れたことと、パパの仕事と何か関係がある?、、、)
様々な事実が少しずつ繋がってきたようだったが、マリーには、まだその全貌が見えては来なかった。
(まずは、ザーラは手強そうだから適度に付き合って、、、エルケさんは信用して、、、ラウラおばさんに相談するのが良さそうね)
マリーは、とりあえず、そう結論を出すと、算数の練習問題を解き始めたのであった...
...to be continued.
青い炎と人形の物語 第5章 その3 [球体関節人形製作]
こんばんは、てぃねこ@ハニたろべねこです。
マリーが月曜の朝、学校に行くと...そこで、新しい出会いが?!
それでは、どうぞご覧ください。
第5章 マリーの覚悟 その3
マリーの通うヴィルレーデ初等学校(エレメンタリ・スクール)は、
土日が休みの週5日制である。
そして彼女は最上級の4年生、来年の8月に卒業である。
マリーが学校に向かって雪道を下っていると、牧場から来る道と合流するY字路のところで、いつもの幼なじみの友達と遭遇した。
「おはよう!マリー!」赤毛の女の子は明るい表情で手を振ると、矢継ぎ早に続けて質問してきた。
「土曜日はアガーテさんが行けなくて大変だったんじゃない?」
(噂話、早い!)
マリーはちょっとビックリした。
「おはよう!ゲルデ!」と努めて明るく答え、
「ううん、ピクルスの瓶詰めを開けて、後はベーコンエッグ作って、なんとかなったわ!」とうまくかわした。
「やっぱり、マリーは家事が上手ね!」ゲルデは羨ましそうに言い、続けた。
「マリーのパパは昨日帰ってきた?」
「うん。昨日の夕方にね。アガーテさんも来てくれて、グラーシュパスタ作ってくれて、美味しかった!」とマリー。
「あー、いいなー、おいしいもの食べて!うちなんか、玉ねぎのスープに、固いライ麦パンだったよー」ゲルデはまた羨ましそうに言った。
「...でね、ゲルデ」マリーは本題に入った。
「パパがまた金曜から2週間出張だし、家を空けることが多いから、いろいろ話し合って、遠縁のおばさんのところに引っ越すことになったの」
「えー!!マリー!転校しちゃうの?!」ゲルデはビックリした。
「ううん、転校はしないよ。」とマリー「でも、ちょっと遠い場所だから、ここまで、冬はソリで送ってもらえることになったの」
「へー、いいなー」とゲルデ。
「うん、おばさんの伝で、エルケさんという人が送り迎えしてくれることになった」とマリー。
「えー、じゃあ、マリーの家に遊びに行ったり、うちに来たりできなくなるね」ゲルデは少しガックリしたが、すぐに持ち直した。
「じゃあ!学校にいる間はたくさん遊ぼうね!」
「うん」とマリー。
「ねぇ、マリー、そのおばさんの家はどこにあるの?」とゲルデ。
「西の森のはずれのポツンと家が建っているところ」
「え?!もしかして、まじない師のラウラおばさんの家?!」ゲルデはやや驚いた。
「うん」とうなずくマリー
「じゃあ、マリーとラウラおばさんは親戚だったのね!...あ!じゃあ、マリーも占いとかできるの?」
次々と問いかけてくるゲルデに対して、
「ううん、遠縁なんで、私にその才能は無いみたい」とマリーはうまくかわした。
「あー、そうなんだー、残念!」ゲルデはさも残念そうに言った。
......
二人はおしゃべりに夢中になりながらも学校にたどり着き、4年生の教室に入った。
なにしろヴィルレーデ村は小さな村なので、1学年は1クラスずつしかない。しかも1クラス12名程である。
教室に入るや否や、一人の男の子がマリーの目の前に立った。
「マリー!土曜の夕方に、お前の家に行ったら、誰もいなかったし、玄関のドアも開け放しだったけど、どっか行ってたのかい?」男の子は少し勢いよく心配そうに尋ねてきた。
「え?!そうだったの?」ゲルデも驚いた。
少し焦ったマリーは「...あー、あれはねー、雪が降ってきたんで、ちょっと玄関から出てみたら、たまたま、犬ぞりが通りかかったので、面白そうなので乗せてもらったの...」
半分は本当である。
「それがエルケさん?」とすかさずゲルデ。
「...えーと、たまたま、エルケのお兄さんのダークさんで、、、森の方まで案内してもらって、、、ちょっと帰りが遅くなっちゃった」マリーはそう言うと肩をすくめた。
また、半分は本当である。
「えー!それ危なくないの?マリー無用心だよ!」とゲルデ。
「ああ、お前、もうちょっと慎重になれよ!」男の子もうなずく。
「ごめん!、ごめん!、分かった、分かった」マリーは少々大袈裟なボディアクションでうまくごまかした。
「...ところで、エルケさんて誰?」と男の子。
「それはですねー、クラウス君、えへん!このゲルデが説明しましょう!」
ゲルデは、さも以前から知っていたように流暢《りゅうちょう》に説明を開始した。
ゲルデが自慢気にマリーの引っ越しを語り、その後、土曜日に自分が家業の牧場の手伝いで頑張ったことを伝えようとしたときに、担任のドーリス先生が教室に入ってきたので、生徒は皆、そそくさと自分の席に着いた。
、と、ドーリス先生が廊下から一人の少女を手招いた。
「皆さん!紹介します。新しく転校してきたローラントさんです」
入ってきた少女は、やや背が高く、長い銀髪でグリーンアイだった。
「ザーラ・ローラントです。仲良くしてくださいね」やや大人びた少女は教室の生徒一人一人に目をやって、最後にマリーをじっと見つめて微笑んだ。
(え?なぜ、私?)
マリーは教室の一番後ろの席で、少々焦った。
...to be continued.
マリーが月曜の朝、学校に行くと...そこで、新しい出会いが?!
それでは、どうぞご覧ください。
第5章 マリーの覚悟 その3
マリーの通うヴィルレーデ初等学校(エレメンタリ・スクール)は、
土日が休みの週5日制である。
そして彼女は最上級の4年生、来年の8月に卒業である。
マリーが学校に向かって雪道を下っていると、牧場から来る道と合流するY字路のところで、いつもの幼なじみの友達と遭遇した。
「おはよう!マリー!」赤毛の女の子は明るい表情で手を振ると、矢継ぎ早に続けて質問してきた。
「土曜日はアガーテさんが行けなくて大変だったんじゃない?」
(噂話、早い!)
マリーはちょっとビックリした。
「おはよう!ゲルデ!」と努めて明るく答え、
「ううん、ピクルスの瓶詰めを開けて、後はベーコンエッグ作って、なんとかなったわ!」とうまくかわした。
「やっぱり、マリーは家事が上手ね!」ゲルデは羨ましそうに言い、続けた。
「マリーのパパは昨日帰ってきた?」
「うん。昨日の夕方にね。アガーテさんも来てくれて、グラーシュパスタ作ってくれて、美味しかった!」とマリー。
「あー、いいなー、おいしいもの食べて!うちなんか、玉ねぎのスープに、固いライ麦パンだったよー」ゲルデはまた羨ましそうに言った。
「...でね、ゲルデ」マリーは本題に入った。
「パパがまた金曜から2週間出張だし、家を空けることが多いから、いろいろ話し合って、遠縁のおばさんのところに引っ越すことになったの」
「えー!!マリー!転校しちゃうの?!」ゲルデはビックリした。
「ううん、転校はしないよ。」とマリー「でも、ちょっと遠い場所だから、ここまで、冬はソリで送ってもらえることになったの」
「へー、いいなー」とゲルデ。
「うん、おばさんの伝で、エルケさんという人が送り迎えしてくれることになった」とマリー。
「えー、じゃあ、マリーの家に遊びに行ったり、うちに来たりできなくなるね」ゲルデは少しガックリしたが、すぐに持ち直した。
「じゃあ!学校にいる間はたくさん遊ぼうね!」
「うん」とマリー。
「ねぇ、マリー、そのおばさんの家はどこにあるの?」とゲルデ。
「西の森のはずれのポツンと家が建っているところ」
「え?!もしかして、まじない師のラウラおばさんの家?!」ゲルデはやや驚いた。
「うん」とうなずくマリー
「じゃあ、マリーとラウラおばさんは親戚だったのね!...あ!じゃあ、マリーも占いとかできるの?」
次々と問いかけてくるゲルデに対して、
「ううん、遠縁なんで、私にその才能は無いみたい」とマリーはうまくかわした。
「あー、そうなんだー、残念!」ゲルデはさも残念そうに言った。
......
二人はおしゃべりに夢中になりながらも学校にたどり着き、4年生の教室に入った。
なにしろヴィルレーデ村は小さな村なので、1学年は1クラスずつしかない。しかも1クラス12名程である。
教室に入るや否や、一人の男の子がマリーの目の前に立った。
「マリー!土曜の夕方に、お前の家に行ったら、誰もいなかったし、玄関のドアも開け放しだったけど、どっか行ってたのかい?」男の子は少し勢いよく心配そうに尋ねてきた。
「え?!そうだったの?」ゲルデも驚いた。
少し焦ったマリーは「...あー、あれはねー、雪が降ってきたんで、ちょっと玄関から出てみたら、たまたま、犬ぞりが通りかかったので、面白そうなので乗せてもらったの...」
半分は本当である。
「それがエルケさん?」とすかさずゲルデ。
「...えーと、たまたま、エルケのお兄さんのダークさんで、、、森の方まで案内してもらって、、、ちょっと帰りが遅くなっちゃった」マリーはそう言うと肩をすくめた。
また、半分は本当である。
「えー!それ危なくないの?マリー無用心だよ!」とゲルデ。
「ああ、お前、もうちょっと慎重になれよ!」男の子もうなずく。
「ごめん!、ごめん!、分かった、分かった」マリーは少々大袈裟なボディアクションでうまくごまかした。
「...ところで、エルケさんて誰?」と男の子。
「それはですねー、クラウス君、えへん!このゲルデが説明しましょう!」
ゲルデは、さも以前から知っていたように流暢《りゅうちょう》に説明を開始した。
ゲルデが自慢気にマリーの引っ越しを語り、その後、土曜日に自分が家業の牧場の手伝いで頑張ったことを伝えようとしたときに、担任のドーリス先生が教室に入ってきたので、生徒は皆、そそくさと自分の席に着いた。
、と、ドーリス先生が廊下から一人の少女を手招いた。
「皆さん!紹介します。新しく転校してきたローラントさんです」
入ってきた少女は、やや背が高く、長い銀髪でグリーンアイだった。
「ザーラ・ローラントです。仲良くしてくださいね」やや大人びた少女は教室の生徒一人一人に目をやって、最後にマリーをじっと見つめて微笑んだ。
(え?なぜ、私?)
マリーは教室の一番後ろの席で、少々焦った。
...to be continued.
青い炎と人形の物語 第5章 その2 [球体関節人形製作]
こんばんは、てぃねこ@ハニたろべねこです。
毎週金曜の夜の更新の時間です!!
それでは、物語をどうぞ!
第5章 マリーの覚悟 その2
「こんばんは、マリー!、はじめまして、フランツさん。エルケ・ナウマンです。この度は、本当に申し訳ありませんでした。」若いメイドはそう言うと頭を深々と下げつつ右手を差し出した。
フランツはマリーから聞かせてもらった経緯から、かなり複雑な思いではあったが、エルケは信頼できる人だということも聞かされていたので、わずかに迷いつつも、その手をガッシリと握った。
「エルケさん、頭を上げて下さい。父親のフランツ・ジルベールです。全ての経緯《いきさつ》は娘から聞きました」
フランツは、半べそ気味で顔を上げたエルケを見て続けた。
「全ての企みは義姉《あね》のリーゼのものでしょうから、その指示通りに動いたあなた方を責めても仕様が無いです。明日、義姉のところに行き話を着けます!」
「ありがとうございます。いつかこのご恩に報います」エルケは少し涙目ながら、僅かに微笑んで言った。
「エルケさん!」
「マリー!」
エルケとマリーは、その場で優しく抱擁を交わした。
「...それで、大変、急なことなのですが、、、」エルケはマリーから少し体を離しつつ、フランツの方を見た。
「リーゼ様とルイーゼ様、そしてラウラ様からの手紙があります」そう言ってエルケは2通の封筒をフランツに差し出した。
「さあ、寒いから居間にどうぞ」フランツはエルケを居間へと促し、3人は居間の四角い木製のテーブルを挟み、ソファーに向かい合って腰を下ろした。
(確かに、この筆跡はルイーゼのものだ...)
フランツはリーゼとルイーゼのサインのある封筒から、まず開いてみた。
手紙には、今回の経緯とマリーとフランツへの謝罪、一度会って話しをしたいこと、マリーにラウラの弟子になってもらいたいことなどが書かれていた。
そして、手紙の最後には、リーゼとルイーゼの筆跡で、フランツへのメッセージとサインが印されていた。
ルイーゼのメッセージに、フランツは軽いショックとともに感慨にも打たれた。
〈フランツ、私はあなたを責めたりしません。
あなたはマリーと再会して全てを聞いたと思います。
夜の夢の中での会話で、あなたとカーヤのこと、その謝罪を聞きました。
今後の行く末はまだ分かりませんが、まずはマリーをラウラに預けて、守って学ばせてください。
近いうちに会ったら、私もあなたに話したいことがあります〉
フランツは思わず目頭を押さえつつ、次のラウラの封筒を開き手紙を読んだ。
〈フランツさん。中道の私が手を貸すのは、ひとえに無益な争いの回避のためです。
マリーに〈釣り上げの魔法〉を習得させて、いずれかのときに、リーゼとルイーゼを引き離しましょう。
それと、ルイーゼから以前に聞いていたと思いますが、私たち魔女の[血の洗礼]は、女子の初潮の辺りから始まります。
リーゼから聞く限りですが、マリーの今の能力から推し量ると、大変な事態になることが予想されます。
これらの事態に対処するためにも、マリーを私にしばらく預ける決断をお願いします〉
フランツは、以前ルイーゼがまだ人の姿で存命していたときに話してもらったこと、魔女が必ず通過する[血の洗礼]のことを、うっかり忘れていたことを恥じた。
しかし、自分が考えていた解決策と、ラウラ、リーゼ、ルイーゼの方策と、うまく合致したことには驚きと、かすかな希望を感じたのであった。
「マリー、お前も読んでごらん」フランツは2つの手紙をマリーに手渡し、彼女が読み終わるのを待ってから口を開いた。
「エルケさん、分かりました...マリー、しばらく家を離れて、ラウラさんのところで暮らしてくれるかい?」フランツは隣に座るマリーの目を見つめながら話し掛けた。
「ええ、もちろんよ。パパ!...その覚悟はできているわ」そう答えるマリーの表情は、もう大人の女性と言っても過言でないほど落ち着いていた。
「パパが出発する日に引っ越すわ!、、、だから7日の金曜日ね!」
「マリー、そんなに早くでいいのかい?」フランツは心配そうに尋ねた。
「ええ、大丈夫。明日から木曜まで普通に学校に行って、帰ってきてから、いろいろ準備して、金曜は休みをもらってラウラさんのところに行くわ!」マリーはあっという間に段取りを立ててしまった。
「分かった。学校にはパパからも連絡しよう、、、苦労をかけるな。ごめんよ!マリー!」フランツは娘の急激な成長に驚き、戸惑いつつも彼女を抱きしめ、マリーもそれに応えた。
フランツはエルケの方を見た。
「エルケさん、明日リーゼ義姉さんに会いにいきます!」
二人を見つめていたエルケは言った。
「それでは、私が明日の正午にソリで迎えに来ます。...それから、金曜の正午にはマリーを迎えに来ます」
......
そして、エルケはマリーとフランツにお別れの挨拶をして、四頭立ての犬ゾリで月夜の青い雪原を去って行った。
エルケのソリを見送っていたフランツは、同じく隣に立つマリーに言った。
「すごく大きな犬だね?」
その言葉にマリーはクスリと笑い、父親を見上げて言った。
「ううん、あれは本当は狼なの!」
to be continued...
毎週金曜の夜の更新の時間です!!
それでは、物語をどうぞ!
第5章 マリーの覚悟 その2
「こんばんは、マリー!、はじめまして、フランツさん。エルケ・ナウマンです。この度は、本当に申し訳ありませんでした。」若いメイドはそう言うと頭を深々と下げつつ右手を差し出した。
フランツはマリーから聞かせてもらった経緯から、かなり複雑な思いではあったが、エルケは信頼できる人だということも聞かされていたので、わずかに迷いつつも、その手をガッシリと握った。
「エルケさん、頭を上げて下さい。父親のフランツ・ジルベールです。全ての経緯《いきさつ》は娘から聞きました」
フランツは、半べそ気味で顔を上げたエルケを見て続けた。
「全ての企みは義姉《あね》のリーゼのものでしょうから、その指示通りに動いたあなた方を責めても仕様が無いです。明日、義姉のところに行き話を着けます!」
「ありがとうございます。いつかこのご恩に報います」エルケは少し涙目ながら、僅かに微笑んで言った。
「エルケさん!」
「マリー!」
エルケとマリーは、その場で優しく抱擁を交わした。
「...それで、大変、急なことなのですが、、、」エルケはマリーから少し体を離しつつ、フランツの方を見た。
「リーゼ様とルイーゼ様、そしてラウラ様からの手紙があります」そう言ってエルケは2通の封筒をフランツに差し出した。
「さあ、寒いから居間にどうぞ」フランツはエルケを居間へと促し、3人は居間の四角い木製のテーブルを挟み、ソファーに向かい合って腰を下ろした。
(確かに、この筆跡はルイーゼのものだ...)
フランツはリーゼとルイーゼのサインのある封筒から、まず開いてみた。
手紙には、今回の経緯とマリーとフランツへの謝罪、一度会って話しをしたいこと、マリーにラウラの弟子になってもらいたいことなどが書かれていた。
そして、手紙の最後には、リーゼとルイーゼの筆跡で、フランツへのメッセージとサインが印されていた。
ルイーゼのメッセージに、フランツは軽いショックとともに感慨にも打たれた。
〈フランツ、私はあなたを責めたりしません。
あなたはマリーと再会して全てを聞いたと思います。
夜の夢の中での会話で、あなたとカーヤのこと、その謝罪を聞きました。
今後の行く末はまだ分かりませんが、まずはマリーをラウラに預けて、守って学ばせてください。
近いうちに会ったら、私もあなたに話したいことがあります〉
フランツは思わず目頭を押さえつつ、次のラウラの封筒を開き手紙を読んだ。
〈フランツさん。中道の私が手を貸すのは、ひとえに無益な争いの回避のためです。
マリーに〈釣り上げの魔法〉を習得させて、いずれかのときに、リーゼとルイーゼを引き離しましょう。
それと、ルイーゼから以前に聞いていたと思いますが、私たち魔女の[血の洗礼]は、女子の初潮の辺りから始まります。
リーゼから聞く限りですが、マリーの今の能力から推し量ると、大変な事態になることが予想されます。
これらの事態に対処するためにも、マリーを私にしばらく預ける決断をお願いします〉
フランツは、以前ルイーゼがまだ人の姿で存命していたときに話してもらったこと、魔女が必ず通過する[血の洗礼]のことを、うっかり忘れていたことを恥じた。
しかし、自分が考えていた解決策と、ラウラ、リーゼ、ルイーゼの方策と、うまく合致したことには驚きと、かすかな希望を感じたのであった。
「マリー、お前も読んでごらん」フランツは2つの手紙をマリーに手渡し、彼女が読み終わるのを待ってから口を開いた。
「エルケさん、分かりました...マリー、しばらく家を離れて、ラウラさんのところで暮らしてくれるかい?」フランツは隣に座るマリーの目を見つめながら話し掛けた。
「ええ、もちろんよ。パパ!...その覚悟はできているわ」そう答えるマリーの表情は、もう大人の女性と言っても過言でないほど落ち着いていた。
「パパが出発する日に引っ越すわ!、、、だから7日の金曜日ね!」
「マリー、そんなに早くでいいのかい?」フランツは心配そうに尋ねた。
「ええ、大丈夫。明日から木曜まで普通に学校に行って、帰ってきてから、いろいろ準備して、金曜は休みをもらってラウラさんのところに行くわ!」マリーはあっという間に段取りを立ててしまった。
「分かった。学校にはパパからも連絡しよう、、、苦労をかけるな。ごめんよ!マリー!」フランツは娘の急激な成長に驚き、戸惑いつつも彼女を抱きしめ、マリーもそれに応えた。
フランツはエルケの方を見た。
「エルケさん、明日リーゼ義姉さんに会いにいきます!」
二人を見つめていたエルケは言った。
「それでは、私が明日の正午にソリで迎えに来ます。...それから、金曜の正午にはマリーを迎えに来ます」
......
そして、エルケはマリーとフランツにお別れの挨拶をして、四頭立ての犬ゾリで月夜の青い雪原を去って行った。
エルケのソリを見送っていたフランツは、同じく隣に立つマリーに言った。
「すごく大きな犬だね?」
その言葉にマリーはクスリと笑い、父親を見上げて言った。
「ううん、あれは本当は狼なの!」
to be continued...