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青い炎と人形の物語 第2章その2 [球体関節人形製作]

てぃねこ@ハニたろべネコです。
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。

「青い炎と人形の物語」の第2章の続きです。
それでは、どうぞ。

第2章 夜の森で(その2)

 「えっー!じゃあ、ママも、あの伯母様も、わたしも、魔法が使えるの??でも、わたし、魔法なんて知らないし、ママが使っているのも見たことがないし?」マリーは口からベーコンエッグをボトリと落としてしゃべった。
 「リーゼ様はもちろん強い魔法が使えます。」狼人のエルケは答えた。
 「マリーのママのルイーゼ様もリーゼ様と同じくらいの力量を持った魔法使いと聞いています。」
 その言葉にマリーは重ねて聞いた。「じゃあ、わたしは?」
 「残念ながらマリーがどんな魔法を使えるのか私は聞いていません」エルケは少し困った顔をしたが、言葉を続けた。
「このことは...本当は言ってはいけないのですけれど...リーゼ様はマリーが持っている魔法の力を欲しがっています」
 「えーっ!?私の魔法の力?」マリーは困惑した。
「そんなもの、わたし、持ってないわ!」

《ドサッ》不意に二人の左方向にある暖炉で音がした。
 「何っ?!」エルケは見事なまでの素早さで暖炉に駆け寄り、中を覗き込んだ。
 「これは!...人形?!」エルケは少し灰にまみれた人形を手に取るとマリーの方を向き直った。
 その人形を見て、今度はマリーが驚いた。「ス、スージー!?」幸い落下の衝撃でも人形は壊れていなかった。
 「これは、あなたの人形なの?!」エルケは少し問い詰めるように聞いた。
 「ええ、わたしがいつも遊んでいる...え!?」マリーは、そこまで言って口をつぐんだ。強い思考のベールがマリーとエルケを包んだ。
 (マリー!驚かないで。私よ、ママよ!)
 「え??!」マリーはビックリしたが、不思議に安心した。
 小さいときにママに抱かれたときと同じ温もりに包まれたからだった。(不思議、スージーがママだってこと、ずっと前から知っていたような気がする...)
 
 狼人のエルケもかなり驚き、しかも困惑した。(人形が!?マリーのママのルイーゼ様なの?!それに何故、このわたしにも正体を明かすの?!どうする??すぐにリーゼ様のところに報告するべきか?)
 エルケの思考を読み取ったように人形のスージーは思考のベールをさらに強めた(エルケさん、あなたを見込んで頼みがあります。わたしを姉のところに連れて行って下さい。ただし、マリーも一緒に)
 エルケは驚愕したが、すぐに冷静さを取り戻して言った。
 「ルイーゼ様、あなたはともかく、マリーを部屋から出すことは、リーゼ様に禁じられています」
 (それでは、私から直接姉に話します)人形のスージーことルイーゼは言った。
 (お姉さま!、、、私が分かりますか?ルイーゼです)ルイーゼはカラスの時と同じように思考を飛ばした。
........

 (...ルイーゼ!あなたなの?!)わずかな沈黙の後、リーゼの思考が返信され、それはマリーとエルケにも伝わった。
 そして、直後に、ルイーゼも応答した。(そうです。お姉さま。今からマリーを連れてお話しに行きます)

 (...分かったわ。マリーを連れて1階まで来てちょうだい)リーゼから少し低い声音の思考が返ってきた。
 「かしこまりました」エルケはそう答えると、マリーに人形を渡して促した。
「マリー、ママを返します。さあ、応接間に行きましょう」エルケが先に立って歩き、マリーはその後ろをついて行った。
(ママ、どうなるの?)
 マリーは心配そうに心で聞いた。
(大丈夫よ。マリー。私が付いているわ)人形のルイーゼは心で答えた。

........

 館の外では、猫のサミーがやきもきしながらつぶやいた。
「あ~!、スージーとマリーは、本当に大丈夫かな~?!」
猫はうろうろ、そわそわし始めた。
 本来ならば、猫のサミーと、犬のベルガーは思考のやり取りはできないが、今はルイーゼが残していった思念のベールによって、思考の交換ができていた。
「慌てるな、今は、待つしかない」ベルガーがつぶやいた。

........

 応接間では、濃紺のドレスに着替えたリーゼが毅然として立ち、その隣には、今はすっかり人間の姿となった狼人のダークが不敵な笑みを浮かべて待っていた。
物語画像狼人ダークC.jpg
 「驚いたわ、ルイーゼ」リーゼは開口一番言った。
「あなたが人形に宿ったことは、動物たちの風の噂で知っていたけれど、まさか、ここに乗り込んで来れる力が残っているとは思わなかったわ」
 人形のスージーはマリーの胸に抱かれたまま、いかにも人形らしく微動だにしなかったが、こちらも毅然として思考を、その場にいる皆に伝えてきた。
 「私の体は動けずとも、私には信頼できる動物たちがいます。娘のマリーは、お姉さまには渡しません」そして、スージーことルイーゼは言った。
 「昔の話し合いの続きをしましょうか?お姉さま」
 ルイーゼのその声には、これから姉と対峙する、静かだが、抜刀の構えのような緊迫感が漂っていた。

........

to be continued...


 




 

 
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青い炎と人形の物語 第2章その1 [球体関節人形製作]

てぃねこ@ハニたろべネコです。
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。

「青い炎と人形の物語」の第2章です。
それでは、どうぞ。

第2章 夜の森で(その1)

 森のはずれの少し木がまばらになった辺りに、その家は
ひっそりと建っていた。
 深い焦げ茶色で、大きさは、、、まぁ一人が暮らすには
十分で、今は小さい煙突から何やら怪しげな紫色の煙が立ち上っていた。
 家の中にはやや歳の行った女が一人、暖炉のかまどの前で
鉄鍋の中の怪しい赤いスープに、さらに怪しげな真っ黒な根っ子を投入していた。
 暖炉の左手の小窓の外は植木鉢台になっていたが、その上に
いきなりカラスが舞い降りて、小窓をトントンとつついた。
「おや、お帰り」女は窓を内側に開いた。
(首尾通り、やってきたぜ)カラスは家の中に飛び込むなり思考を送ってきた。
「最終的に、犬が人形を咥え、猫を背負って、西の森の館に向かって行った」
カラスは四角い古い木のテーブルの上に飛び乗った。
「こら!テーブルの上の薬品をこぼすんじゃないよ!」
女は慌てて叱った。
(おーっと、失敬、大丈夫、大丈夫)カラスは応じた。
「もう日も暮れてきたようだね」女は呟くように言った。

物語画像カラスC.jpg

「なぁ、ラウラ婆さん」カラスは話し掛けた。
「おだまり!ザシャ!お姉さんとお呼び!」女はするどく言った。
「あー、すまねぇ。もとい、ラウラ姉さん」カラスは言い直した。「俺は人形と話をしたのは初めてなんだが、ありゃ一体何なんだい?」
「私は、直接あの人形と話したことはないが、動物伝えで聞くところによると、どうもマリーの母親が亡くなった頃から会話ができるようになったようだ。もっともマリーは知らないようだがね」ラウラは杖を片手に暖炉の前の丸椅子に座りながら答えた。
「へー、そりゃ、魔法の一種かね?」カラスは口をはさむ。
「そうだね。恐らく」ラウラは続けた。
「私がにらんだところ」そう言うと彼女は一旦言葉を切って続けた。
「マリーの母親のルイーゼ本人ではないかと思うよ」
「ほー、確か母親は死んだと聞いていたが?」カラスは首をやや傾けた。
「確かに死んで彼女の肉体は滅んだ」そう言ったラウラの目はするどく光った。
「しかし彼女の最後の魔力によって、彼女の精神、いや魂そのものを人形に移したのだろう」
「ほー、ほー、そりゃ凄い。それが本当なら、ある意味、不老不死とも言えるんじゃないのかい?」カラスのザシャは目を丸くして翼を動かした。
「薬品をこぼすんじゃないよ!」ラウラの叱咤が飛ぶ。
「わかってる、わかってるって」ザシャは答える。
「...さて、中道の私としては、これからどうすべきか?」ラウラはそうつぶやくと、杖を突き立ち上り、ザシャの入ってきた小窓の前に佇み、夕闇の迫る雪景色を眺めた。

........

 セントバーナード犬のベルガーは、大木が4、5本からまった前辺りの地面の匂いを嗅いでいたが、すぐに踵を返し、雑木林の陰になっているところに戻ってきた。
(マリーの匂いはあの大木の前で途切れているが...?)犬は思考の声を送ってきた。
(おいらにも、大木にしか見えないけどな~。もしかして木の上にいるのかな?)猫のサミーはブツブツと呟いた。
「強い魔力だわ」人形のスージーは力強く言った。「普通の人間や、あなたたち普通の動物には大木のように見えているけれど、本当は大きな館が、あそこにあるわ」
(へー、そうなんだ。さすがはスージー。元魔女だけのことはあるね)サミーは感心した。
(なるほど、、、そういうことだったか)ベルガーは呟いた。
「ベルガー、サミー、私の能力を拡大して、あなたたちにも一時的に館が見えるようにするわ」スージーはそう言うと、強い思念のベールを拡大した。
(なるほど、霧が晴れるようだ)とベルガー。
(おやおや、本当だ。こりゃー驚いた)とはサミー。
「あなたたちが館を見えるようにしていると同時に、私たちの姿は別物に見えるようにしているわ」スージーは続けた。
(え?というと、何に?)サミーはビックリした。
「ベルガーは猪、サミー、あなたはリス、私は胡桃」
「へー、すごいなー」サミーは感心した。
 その言葉の後、スージーは意を決して言った。
「二人にお願いします」
ベルガーとサミーは木の根元に寄りかかっているスージーを見た。
「寒いけれど、ベルガーにはここで待機していて欲しいの」
(マリーを助けるためなら、何てことはないさ)ベルガーは即答した。
「サミーは私を咥えて、あの屋根の上にある煙の出ていない煙突から私を中に落としてちょうだい」
(えーっ!暖炉に火がついたらどうするんだよ!?)サミーは驚いて叫ぶ。
「私は精神の一部を伸ばして、こっそりと煙突の中と、その先の部屋の中を探っているわ」スージーは答えた。
「その部屋の中にマリーがいるわ。後、もう一人若い女、いえ、たぶん狼人ね」
(そうか、無事だったか)ベルガーが呟いた。
(良かったー。でも、今、落としちゃまずいよね?)とサミー
「いえ、今すぐに落としてちょうだい」
(なんだって?!)(えええっー?!)ベルガーとサミーは驚愕して叫んだ。

........

to be continued...
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青い炎と人形の物語その5 [球体関節人形製作]

てぃねこ@ハニたろべネコです。
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。

「青い炎と人形の物語」の続きです。
それでは、どうぞ。

第1章 冬のある日(その5)

 カラスに、マリーの行き先を教えられた人形のスージーと
黒猫のサミーは、とても妙なスタイルで出発した。
 大きいが大変おとなしいセントバーナード犬がスージーを
咥え、犬の背中にはサミーが震えながら必死にしがみついていた。
 セントバーナード犬のベルガーは、普段マリーが良く遊び相手になっている近所の家の飼い犬であった。

(マリーの日頃の行いに感謝ね)スージーは思った。
(でも、この唾液には、、、ちょっとガマンかな)

(う、う、う、ここは、耐えるしかない、い、い)
サミーは目を固くつぶりながらも犬の背中で踏ん張っていた。

 幸いボタン雪は峠を越えて、ちらほらと降るばかりとなったが、夕闇が急ぎ足で近づいてきた。
「ベルガー、申し訳ないけど、日が沈むまでには到着して欲しいの」スージーは思考の声を送った。
「分かっている。お前さんも口の中でもう少しガマンしてくれ」
ベルガーの思考の声に、スージーの思考は赤面した。

........

 閉ざされたドアの前で、いつまで待っていても仕方無いので、マリーはベッドの中に入った。
(このほうが暖かいもの)
 客間には火の気がなく、大きめの暖炉には薪も炭も置かれてはいなかった。
「夕食を持って参りました」ドアのカギがガチャリと開き、昼のメイドがトレーを片手に静かに入ってきた。
 先ほどの風のような身のこなしから、逆らっても無駄だと思い、マリーはベッドで横になったまま、頭だけドアの方を向いた。
「いらないわ」マリーは答えた。
 メイドはベッドの前の小さな丸いテーブルの上にプレッツェル、ベーコンエッグの入った皿と、ホットミルクのコップを置いた。
「別に毒は入っていませんよ。わたくしが毒味をいたしましょうか?」メイドは少し微笑みながら言った。
 マリーはかなり空腹だったので、ベッドからガバッと起き上がると、テーブル前の丸椅子に座り込み、プレッツェルを頬張った。
物語のメイドエルケ_C.jpg

 ホットミルクを半分ほど飲むと、マリーは、だいぶ落ち着き、腰の前にトレーを両手で持っているメイドに尋ねた。
「あなたも、あの狼男と同じなの?」
 メイドは少し困った顔をしたが、すぐに質問に答えた。
「ええ、わたくしや、ダーク、あ、わたくしはエルケと申します」冷ややかな印象は消え、メイドは急に雄弁になった。
「私達は、半分狼、半分人の血を引いた狼人の一族なんです...座ってお話ししてもよろしいですか?」
 マリーが頷いたので、エルケは優雅だが野生的な身のこなしで、マリーと反対側の丸椅子に腰を下ろした。
 「わたくしのこと、恐くないですか?」エルケは覗きこむようにマリーを見て言った。
 「正直言うと、少し怖い...かな?でも、こうして話してると普通の人と同じみたい」マリーは少し小声で答えた。
 「マリーお嬢様は勇気がありますね」エルケは優しく返した。「わたくしとダークは兄妹なんです。兄はだいぶ乱暴な言葉使いですけれど、一族の中ではとても頼りになるんですよ。でも、だいぶ手荒かったですよね。痛かったですよね?本当にごめんなさいね。マリーお嬢様。」
 エルケの声にマリーは思わず目がうるっとしたが、慌てて手で擦った。(まだまだ、油断しちゃだめ!)

 そんなマリーを優しく眺めるエルケは話を続けた。
 「どうぞ食事を続けながら聞いてくださいね」
 マリーは、その言葉に素直にプレッツェルを頬張った。
 「多分、マリーお嬢様が知りたいことを話しますね。私達兄妹二人は10年前から、お嬢様の」エルケがそこまで話したときにマリーは口を挟んだ。
 「エルケさん。マリーって呼んで」
 それを聞いたエルケは思わず微笑んだ。
 「わかりました。では、マリー。私達は、リーゼ様に仕えて
10年になります。リーゼ様が話したことは全て本当のことです。でもマリーが話したことも本当のことだと思います。ただリーゼ様がまだ話していないことがあります」
 「え、それは何?」マリーはベーコンエッグを食べながら聞いた。
 「マリーには、急には、信じられないと思いますが」エルケはそこで一旦言葉を切った。
 「リーゼ様も、マリーのお母様のルイーゼ様も、そして、マリー、あなたも、魔女の一族なんですよ」
 エルケの言葉に、マリーはベーコンを咥えたまま思わず唖然とした。

........

to be continued...





 
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青い炎と人形の物語その4 [球体関節人形製作]

てぃねこ@ハニたろべネコです。
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。

「青い炎と人形の物語」の続きです。
それでは、どうぞ。

第1章 冬のある日(その4)

「ドン!」
重量のあるビンが棚から床に落ちたが、割れはしなかった。
「おぅ、とぉ...大丈夫、大丈夫」
猫のサミーは鼻面でビンを転がし、玄関の扉の横の猫用扉から
外に出し、郵便受けの真下に持ってきた。
その後、苦労して肉叩きハンマーの紐をくわえて引き摺り、
紐を咥えて、懸命に郵便受けの上によじ登り、ハンマーを
ちょうど良い位置に置いた。
「これで、準備はできたぞ。やれやれ」
サミーはそそくさと家の中に戻って行った。
「スージーの受け売りだがね...」猫はつぶやいた。

........

ソリが速度を落とし始めたころ、混濁していたマリーの
意識は少しずつ戻ってきた。
(ここは...どこなの?...)
やがてソリは静かに停止した。
「さぁ、着きましたぜ。マリーお嬢ちゃん」
狼男...いや、もう、ほとんど人間の男の姿形に戻った(?)者は、
マリーを片方の肩に担ぎ上げた格好でソリを降り、城のように大きな白い洋館の入口に向かって歩き始めた。
「は、離して!」
マリーは両手で狼男の肩を押し、抜け出そうとしたが、両足を
がっちりと固められており、びくともしなかった。
「おっと、マリーお嬢ちゃん。今は、逃げないほうが身のためですぜ」
狼男はそう言うと、ニヤリと笑った。
人間の姿であるが、人間離れした獰猛で冷徹な声音に、マリーはとりあえず抵抗をやめた。
狼男が入口の大きな両開きの扉の前に立つと、扉は館の内部に向かって、音もなく開かれた。
マリーと狼男が中に入ると、扉は勝手に閉まり、やや薄暗いエントランスの大広間に、ほのかな橙色のランプが灯った。

物語画像おおかみC.jpg

「良くやりましたね。ダーク、ご苦労様」
やや歳のいった、しかし、高貴な女の声がした。
マリーはゆっくりと狼男の脇に降ろされて正面を向いた。
そこには、白い優雅なドレスに身を包んだ背の高い女が
立っていた。
マリーは思わず息をのんだ。
「マ、ママ?...いえ...あなたはママの何?」
その女は、マリーが4才の時に亡くなった彼女の母親の顔に
そっくりであった...が、その高貴さと冷徹さは、別人のようでもあった。
「驚くのも無理はないでしょうね。ルイーゼは私の妹なのだから」女は言った。
「えっ!?ママにお姉さんがいたの?!」マリーは思わず小さく叫んだ。
「ええそうよ、マリー。私の名前はリーゼ。あなたの伯母ですよ」リーゼという女は答え、そして続けた。
「乱暴なことをして悪かったわ、マリー。ごめんなさいね。でも、こうでもしないと、あなたに会うことができなかったものだから」リーゼは遠くを見るように、やや上を見上げた。
「どういうことなんですか?!」マリーは問い詰めるように尋ねた。
「話が少し長くなるわ。そこのソファーに座ってちょうだい」
リーゼの促しに、とりあえずマリーは左手にあるソファーに
腰を下ろした。
リーゼもその正面に深く腰を下ろした。
目の前には、細長く丸いテーブルがある。
狼男のダークは、元の位置に立ち、微動だにしなかった。
リーゼが指を鳴らすと、若く、しかし精悍な顔立ちのメイドが現れ、二人の前に静かにティーカップを置き、紅茶をそそぐと、また去っていった。
それから、リーゼは語り始めた。

........

リーゼとルイーゼは8才違いの姉妹で、彼女たちの両親が事故で亡くなった後、莫大な遺産により二人だけで暮らしていた。
しかし、ルイーゼが18才のときに、彼女は姉が反対する男、つまりマリーの父親と駆け落ちし、家を飛び出してしまった。
以来、姉と妹は連絡を取ることは無かった。
そしてマリーが産まれ、彼女が4才のときにルイーゼは病で亡くなり、葬儀のときには、離れて参列し、名前を明かさなかった。
その後、リーゼはマリーの父親に、自分が母親がわりになると申し出たが、父親はかたくなに拒んで、マリーをリーゼに合わせないようにしていた。
リーゼは結婚はしておらず、マリーの母親代わりと、莫大な遺産を相続してもらうために、マリーを養子に迎えたいのだという。
また、ルイーゼと駆け落ちした父親フランツは、当時からかなりの額の借金があり、その返済のために遠方まで出稼ぎに出るために、家を空けることが多く、マリーを十分に見守ることができないという現状があり、マリーの将来の幸せを考えて、リーゼは今回の強行手段を用いたのだという。

........

「でも、私は十分幸せです!パパはよく泊まり掛けの仕事に行ってしまうけど、ときどきの休みの日は勉強を見てくれたり、一緒に教会に行ったりもするわ。それに毎日夕方には、お手伝いのアガーテさんも来てくれるの。ときどきお菓子も焼いてくれるし...そうだ!そろそろ夕方だからアガーテさんが来るはずよ!心配するから、急いで帰らなくちゃ!...ならないんです!」マリーは一気に捲し立てた。
「そう慌てなくてもいいのよ。アガーテさんには、私から今夜外泊することを話してあるのだから」リーゼは体を乗り出してマリーを射るように見て言った。
「帰らなくちゃ、帰してください!」マリーは立ち上がり、扉に向かおうとした。
指が2回鳴ると同時に、マリーは狼男に背後から両腕ごと抱きかかえられ、高く持ち上げられた。
「痛い!!」マリーは叫んだ。
「マリーをお部屋に案内して」リーゼは冷たい口調で言った。
「はい、ご主人様」狼男のダークは風のように2階の客間にマリーを運び入れ、ベッドの上に彼女を投げ出した。
いつの間にか、先ほどのメイドも客間に入っていた。
「食事はわたくしが運びます。洗面所は部屋の隅です。それでは、おやすみなさいませ」
マリーがベッドから起き上がるより早く風のように、2人は部屋から出て行った。
ガチャリとドアに鍵がかけられた。
マリーはドアに突進し、ドアを開けようとしたが、もちろん開かなかった。
「あっ!あっ!...あーっ!」
マリーはドアの前で泣き崩れた。

........

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青い炎と人形の物語その3 [球体関節人形製作]

てぃねこ@ハニたろべネコです。
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。
今年もよろしくお願いします。

早速、「青い炎と人形の物語」の続きです。
では、どうぞ。

第1章 冬のある日(その3)

きつく抱き上げられたことと恐怖で、マリーは身動きひとつできなかった。
(?!...何者なの?!)
二足で走るオオカミは、森の中に入ったが、すぐに外に抜け出し、小さな広場らしきところに着いた。
そこには、なんと四頭立てのソリが停まっていた。いや、四頭立てと言っても、いやに背の低い...馬ではなく...
(狼!!)
マリーを抱いた二足オオカミは宙を舞うようにソリに乗り込むなり叫んだ。
「出してくれ!兄弟!」
ソリは風のように走り出し、ボタン雪がつぶてのように当たってきた。
見上げたオオカミの顔は、人間の男と狼の混ざったような顔となっていた。
(これは...狼男?...なの?)
マリーの頭の中を、昔見た絵本の中の狼男が駆け巡った。
そして、狼男は吠えるように笑った。
「ハハハ、急げよ、兄弟!」
(...どこへ?...)
マリーは意識が遠退いていくのを感じた。

........

「人ではない...!」
人形のスージーは、頭をフル回転させた。
「人間の男に化けた獣のようだわ、たぶん....」
彼女は匂いの感覚が少しにぶかった。
「大変だ!スージー!マリーがさらわれた!」
黒猫のサミーは2階に飛ぶように上がってくると
いきなり思考をぶつけてきた。
「サミー!あいつは何者だったの?!」
スージーも思考をぶつけ返した。
実は二人?は以前から思考によって会話していたが、
それほどおしゃべりをする訳でもなかった。
「おいらの苦手なイヌ...ぶるぶる!...いや、あれは
オオカミだった!...ぶるぶる!」
サミーは身震いしながら答えた。
「そうか!なるほど!あいつは伝説の狼男ね!」
スージーは素早く推理を巡らせた。
「どうしようか?どうしようか?オオカミじゃ、もっと苦手だよ」
黒猫はウロウロするばかりだった。
「落ち着きなさい!サミー」
スージーは冷静だった。
「外でカラスの鳴き声が聞こえる。頼んでみる!」
彼女は思考を飛ばす能力があった。
(カラスさん、カラスさん、頼みがあるの!)

物語画像人形スージーC.jpg
........
「ん?誰だ?誰だ!俺に話しかけてくるのは?」
空を飛んでいる最中のカラスは狼狽した。
(私は、あなたの下に見える白い家にいる人形よ)
スージーはすかさず応答する。
「人形だって?!初めてだな、人形に話しかけられたのは!」
カラスは家の上をくるくると旋回した。
(金髪の女の子を連れた狼男を見なかった?)
スージーはストレートに尋ねる。
「そういや、さっき、ソリに乗ったそれらしき一行が
西の森に向かって行ったのを見たぜ」
カラスはぶっきらぼうに答えて、見た映像の思考を送って
きた。
確かに、映像のソリには、マリーと彼女を抱いて捕らえている
狼男のような者が乗っていた。
「じゃあな、俺はきょうの夕飯を探しに行かないと」
カラスはスージーの居る家から離れていった。
(あ!待ってカラスさん!どうにか追いかけられないかしら?)
スージーは食い下がった。
「おいおい、俺の夕飯でもごちそうしてくれるなら
考えてもいいが、あんたには無理だろ?」
そう言ってカラスはフンと鼻を鳴らした。
「うちの猫のサミーが用意できるわ」
スージーはすかさず答えた。
「わかった。その言葉を忘れるなよ!追いかけてみる」
カラスはそう言い残して西の森に向かって飛んで行った。
........
「なあ、スージー、カラスはなんて言ってたんだい?」
サミーはスージーの置かれているテーブルの上に飛び乗って
人形に鼻を押し付けた。
「今、追って行ってもらっているわ。サミーはカラスさんの
夕飯を用意しておいてね」
「あー、交換条件てやつか、わかった、何とかするよ」
スージーの返答にサミーはぶつくさとつぶやいた。

........

そのころ、近くの家のお手伝いのアガーテと、その旦那は、
何者かの手によって、家の中で、深く眠り込まされていた。

........

to be continued...
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