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青い炎と人形の物語 第9章 魔法の女王 その3 [球体関節人形製作]

 
 エレベータに乗ったリーフマン大尉は地下2階へと向かったが、その中には薄青い透明色の精神体のマリーも一緒であった。
 ただ、その精神体は通常の人間には見ることはできず、魔法の力を持った者にしか見えなかった。

 地下2階で降りたリーフマンは左手に進み、そのあと右手に曲がると、目的の留置場が見え、入り口の鉄格子の前には一人の警備兵が椅子に座っていたが、リーフマンの姿を見ると立ち上がり慌てて敬礼のポーズを取った。

「2号房の脱走兵に尋問する。開けてくれ!」
リーフマンの言葉に、警備兵は急ぎ留置場に通じる鍵を開け、鉄格子の扉を開くとリーフマンを入れて、そのあとは中にいる警備兵にバトンタッチした。

 中にいた警備兵は急ぎ2号房の鉄格子の小さな扉を開け、房の中央にある金属の椅子に後ろ手で両手を手錠で固定され、また両足首も足枷で拘束されている女のところに行き、その拘束具合を確認した。
 なお、金属の椅子の足だが、4本とも金具とボルトでコンクリートの床にしっかりと固定されていた。

「しばらく外してくれ」
 同じく2号房の中に入ったリーフマンの言葉に、警備兵は外に出ると急ぎ留置場の入り口まで戻っていった。

「さて...キルシュ少尉、君たち鬼人族出身の軍人が皆、一昨日8日の土曜日あたりから姿をくらましているようだが、軍の捜索隊はまもなくその者達を全て捕らえるだろう...その中で、君は一番に捕らえられた訳だが...少尉という立場にある君であれば、今回の脱走の背景にある事実を説明してくれるだろうと期待しているが...話してくれるかね?」
 リーフマン大尉は最初は優しい口調で話し始めた。

「......」
 すでに顔を殴られたのか赤黒い左頬と、血を滲ませた唇の端を噛みしめるようにして女は口を閉ざした。

「おい!...シュべルトの町で起きたことについて、どこまで知っているんだ?キルシュ!」
 リーフマンはキルシュの細い顎を黒い皮の手袋をはめた左手でグイと上げさせた。

「!...VV親衛隊が、私たちの故郷を襲撃したことを聞きました!そんな帝国陸軍に私たち鬼人族はいるわけにはいきません!!」
 キルシュは強い意志の籠った眼でリーフマンを睨み付けた。

「ほぉ。すでにその情報を知っているのか!、、、その情報はどこから仕入れたものなんだ?、、、キルシュ?」

「...それは、私たち鬼人族の秘密です!言うわけにはいきません!」
 キルシュはリーフマンの氷のような冷ややかな眼から視線を外さずに言い放った。

「...なるほど...ここに自白剤というものがある...」
 リーフマンはそう言いながら腰のベルトに付いているポーチの中からシガレットケースくらいの大きさの金属の箱を取り出すと蓋を開けて、2本の注射器をキルシュに見せた。

 リーフマンは金属の椅子に拘束されているキルシュの後ろに回ると、前腕の内側に注射器の針を刺して自白剤を押し込んだ。

「うううっ!!」
 自白剤を打たれた痛みとショックでキルシュは声を上げた。

「...いや、キルシュ、声を上げるのはまだ早いぞ? 俺にもう少し楽しませてくれ」
 リーフマンはそう言いながら、今度は金属のケースから細長い針を2本取り出すと、まず1本をキルシュの右手人差し指の爪の間の肉にグイと押し込んだ。

「ぎゃああぁっー!!」
 凄まじい痛みにキルシュは悲鳴を上げ、身体を拘束された椅子の上で捩《よ》じらせた。

「まだだ。まだもう一本あるぞ?」
 リーフマンはそう言いながら2本目をキルシュの右手の中指の爪の間の肉にグイと押し込んだ____

____『!!許さないっ!!』____

 それは一瞬の出来事であった。

 透明な精神体のマリーの両手がマジックハンドのように伸びると、キルシュとリーフマンの精神体をグイと掴むなり手を交差させ、二人の精神体と精神体を一気に入れ替えた!

「ぐあああーっ!」
 痛みのあまりキルシュ___否、新しい体に入れられたリーフマンは叫び声を上げ、ショックで気絶してしまった。

「えっ?!何っ?これは?!」
 リーフマンが___否、新しい体に入れられたキルシュが驚き叫んだ。

『キルシュさん!怖がらないで!魔女のマリーと言います』
 マリーは透明な精神体を魔法の力が無い者でも見える程度に輝度を上げ、精神の会話でキルシュに話しかけた。

「!!あ、あなたは!まっ、、」
 リーフマンことキルシュは叫びかけたが、マリーがシィーッと口に人差し指を当てたので、自身の口を抑えて声が漏れるのを防いだ。

『あとで、必ずまたあなた達の精神を入れ替えます!今はそのリーフマンの精神が入っているあなたの体を連れて逃げてください!』

『わかったわ!小さな魔女さん!』
 軍の諜報部にいたキルシュはすぐに状況を飲み込んで心で答えると、今までの軍の経験による機転を利かせて大きな声で警備兵を呼んだ。

「おい!警備兵!来てくれ!自白剤の量が多かった!すぐに陸軍病院に連れていくから車を手配してくれ!」

 先ほどの警備兵が大急ぎで駆け付けてくるとキルシュの手錠と足枷を鍵で外し、入口にいた警備兵は構内電話で応援を呼び、応援に来た下級兵が担架を持ってくると、リーフマンことキルシュは下級兵の一人と担架でキルシュの身体を運び、エレベータで1階に上がると帝国陸軍本部の建屋の裏手にある駐車場に向かい、スタンバイしていたジープの後部座席にキルシュの肉体を乗せ、手錠と足枷をつけると、ジープの助手席に座り運転手に陸軍病院に行くように指示を出した。

 ジープが発進していくのを見届けたマリーは、
『...ごめんなさい。うまく逃げてね、、、あとで、、、あとで、必ず精神を入れ替えてあげるから!...私はもう一か所行かなければならないところがある!』

 そう思った次の瞬間には、マリーの精神体は空高く舞い上がりまるで砲弾のような速度で東へと飛んでいったのであった。

...to be continued.



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