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青い炎と人形の物語 第10章 一か八かの計画 その2 [球体関節人形製作]

 
 ラッシア国の首都モルダワにあるコラムレーン宮殿の指令室(王の部屋)で、スタルン総司令は、同盟国であるボルソーカ国の国境線に近い領域で、陸軍の戦車部隊を展開させているデイテュラント国の行動の真意を測りかねていた。

(ボルソーカ国国境線にいる我国の戦車部隊からの連絡によれば、デイテュラント国の戦車部隊は自国の方向に砲塔を向けているというが...ボルソーカ国の国境線を超えて侵攻するつもりは無いのか?)
 スタルン総司令が思考を巡らしていると、部屋のドアがノックされた。

「スタルン総司令殿。ロプコフです。お伝えしたいことがあります」

「入り給え。ロプコフ大佐」

 ドアが開かれ、軍服姿の男が入ってきた。
 当然、ドアの左右にはスタルンお抱えの護衛の兵士が立っているのである。

「スタルン総司令殿。デイテュラント国に潜入しているカグベ特殊工作員からの連絡です」
 ロプコフは連絡を続けた。

「デイテュラント国の戦車部隊の目的は、自国の北東部の民族に対する制圧、つまり内戦の開始であるとの連絡がありました」

「なるほど...内戦の勃発か」
 そのときスタルンの頭の中で、自国の戦車部隊が内戦に乗じてデイテュラント国へと侵攻を開始し、デイテュラント国東部を制圧する映像がありありと浮かび、このタイミングで軍事作戦を遂行すべきだとの思いが頭の中を支配し始めた。

「よし、内戦の開始に乗じて国境線を超えてボルソーカ国の戦車部隊を侵攻させるのだ」
 スタルンは大佐に命令を下した。

「はっ。かしこまりました」
 ロプコフ大佐は命令を伝えるために部屋を出て行った。

 このとき、指令室の空中に浮かんでいたほぼ透明に近い姿の一人の少女の力により、スタルンが最終決断をしたことに気づく者はいなかった。

******

 そのころ、デイテュラント国の東の端のシュベルトの町のはずれにある古いホテルの一室では夜遅くであるにも関わらず、奇妙な会談が行われていた。

 二人は生身の体の子供で少年と少女であり、もう一人は凛々しい顔立ちの軍服の青年、そして,,,もう一人は老婆であったが、その姿はほぼ透明に近かった。

 二人の子供は1つのソファ、残り二人の大人は別々のソファに座り向かい合っていた。

「ラウラさん。それがあなたの計画なのですね?」
 軍服の青年が言った。

『そのです。ブルクハルト王子。それが長い目で見たときに最も損害が少ない選択でしょう』
 精神体だけの状態で、魔女のラウラはテレパシーで言葉を伝えた。

「住民は明日の昼までにひそかに町を脱出させて、彼ら兄妹や魔女達は残って作戦に協力すると...本当にこれで自治区設立が確かなものになって、鬼人族、狼人族、魔女族が安心して暮らせる土地になると言うんですか?」
 ブルクハルトはラウラを鋭い眼光で見た。

『確実にそうなるとは言えませんね。しかし、このまま帝国陸軍と対峙する方向では、内戦がエスカレートして犠牲者が増えるばかりで、自治区設立などは水泡と帰すことでしょう』
 ラウラはブルクハルトにそう言った後に魔の帝王と女王のレオンとレオナを見た。

「ラウラさん...確かに僕たちも好き好んで内戦をする気はないですよ。ただ降りかかってくる火の粉は払わなければならないので...分かりました。あなたの言う計画に乗りましょう」
 レオンはそう言うとレオナの方を見た。
「レオナもそれでいいかい?」

「...私はレオン兄さんの言うことに従うわ」
 とレオナ。

「ブルクハルト王子」レオンは言った。
「魔女も含めた僕たちは、ラウラさんの計画に乗りますよ」

「...わかった。レオン君。君らがそう言うのであれば、そうしよう」
 ブルクハルトも決断した。

『これで決まりだね...それじゃあ、あとは手はず通りに頼みます...ところで、疲れたので私は少し休みますよ』
 ラウラはそこまで言うと精神体からテレパシーを送るのをいったんやめて精神体の目を閉じて休息の状態となった。

 今までに、これだけ遠隔で精神体だけで行動したことはラウラも無く、その元の肉体や精神はかなりの負担を強いられていた。

 レオンとレオナは少しの間、その様子を見ていたが、すぐに配下の魔女達にテレパシーで指示を出した。

 こうして、11日の未明から朝方にかけてシュベルトの町の住民は簡単な荷物をまとめると、すべて徒歩や馬車に乗ってひそかに町を脱出し、北の方角へと避難を開始することとなった。

 ただ、ブルクハルト王子を含む視察団一行はレオン、レオナや魔女達とともに町の中央にある公民館に移動して、町に残る選択をした。
「どういった事態になったとしても、今回の首謀者である我々が町を離れる訳にはいかないのでね」
 というのがブルクハルトの出した結論であった。

 そして、普通魔法《まやかし》を見せられている視察団一行も、ブルクハルトと共に移動し、フランツとカーヤも人質として連れていかれたのである。


...to be continued.



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