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青い炎と人形の物語 第4章その1 [球体関節人形製作]

てぃねこ@ハニたろべネコです。
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。

 いよいよ「青い炎と人形の物語」の第4章です。
 第4章は場面が大きく変わります。自治区の設立とは何なのか?
 それでは、物語をどうぞ。

第4章  自治区(その1)

 帝国議員と軍のお偉方に発表する書類を作る期限は、翌朝の9時だった。
 「こりゃ、今夜は徹夜かな?」男はタイプライターを前にして頭を抱えた。
 そう言いながら男は机の上にある煙草に手を伸ばしたが、また引っ込めた。
 「娘にタバコ臭いとは言われたくはないが、、、今は、、、やむを得まい!」男はオイルライターで煙草に火をつけて、スゥーッと一息吸い込んだ。
 ハァーッと大きく煙を吐き、男はやや落ち着いた。
 コンコンと部屋のドアがノックされ、一人の若い女が左手にコーヒーのポットと、右手にほうろうのコップを2つ持ちながら、右足でドアを蹴り押して入ってきた。

 「あら、フランツ先生、また煙草吸ってるの?」女は開口一番そう言った。
 「せっかく眠気覚ましにコーヒーを持ってきたのに」

 「あぁ、カーヤ、どうしてもいいアイディアが浮かばないんで」フランツと呼ばれた男はそう答えて、決まり悪そうに椅子を回転させて女の方を向いた。

物語画像フランツC.jpg

 「自治区設立の法案に関する補足説明資料の作成の件でしょ?」カーヤはそう言いながら、ポットとコップを机の上に置き、熱いコーヒーを二人分コップに注いだ。
 香ばしい薫りに目を細めながら、二人はコーヒーを一口すすった。

 「自治区内の各族を表記する名称なんだが、」二口目のコーヒーをすすりながらフランツは言った。
「各族の歴史的背景から抽出しようとしたけれど、どうもうまく表現できるような名称が出てこなくてね」

 「各族の代表者からの手紙には何て書いてあったの?」カーヤも二口目のコーヒーをすすりながら尋ねた。

 「代表者と言っても、各一族の中で大きく2つの派閥があって、それぞれの代表者からの提案があるんだ。」フランツは心の中の葛藤を吐露するように熱を帯びて語り始めた。

「片方の代表者は各族の居住地付近の地名を使った無難な名称なんだけれど、もう片方の代表者からは一族の真実の姿をあからさまに表現するような名称になっているんだ。しかも前者は最終的な命名をこちらに委ねているのだけれど、後者は名称については基本的に譲れないと言ってきているんだ」

「後者の名称は例えば何なの?」カーヤは興味をそそられて尋ねた。
「ヘクセン族かな、あと2つの族は、それぞれヴォルフォン族、デリモン族という名称さ」やや渋い顔をしてフランツは答えた。
「まぁ、ほとんど、そのまんまの名称ね」カーヤは驚いて言った。「それじゃ法案を審議するときに、もめ事が起きそうね」

「確かにそうなる。ファシーズ党派の議員、軍の将校、司教が法案通過の邪魔をするだろうな」フランツはますます渋い顔をして続けた。「そこで、各族の穏健派の前者が一族の多数を占めることから、自治区設立時の法令に従って、名称は法案の提出者に委ねられて、そのお鉢が僕に回ってきたという訳なんだがね」
「今までの経緯からそうなると思うけど...ある意味、責任重大ね」カーヤはぼやくように言った。

「ああ、かと言って前者の居住地付近の名称では、自ずと自治区の範囲を狭めてしまうから、別の名称にする必要があるのさ」フランツはそう言うと残りのコーヒーを半分ほど飲み干して続けた。
「しかし、不思議なのは、各族には確かに2つの派閥があるけれど、自治区設立は共通の悲願であったはずなんだ。それをわざわざ困難にしようというのは...何か裏があるんじゃないだろうか?」
「うーん、確かにそうね。何かしらね?」カーヤも首をひねったが、続けてフランツが驚くようなことを口にした。
「自治区設立の法案の提出が否決されたことを盾に、何か行動を起こすとか?」

物語のカーヤC.jpg

「え?!まさか、、、ここまで来て、そんなことは、、、」フランツはそこまで言って、思わず黙り込んだ。
(まさか、ルイーゼの姉のリーゼの計略が、そこまで具体的に進んでいる?、、、いや、そんな兆しは、今まで全く感じられなかったが、、、しかも、どうやって?)

 フランツの少々青ざめた顔を見て、カーヤは少し明るく言った。「まぁ、私も手伝うから、いい名称を見つけましょうよ。ねぇ、フランツ先生」
 その言葉にフランツは少し決まりが悪そうに返した。「確かにゼミでは、僕は先生だけど、君もゼミの研究室のブレインだから、ほぼ先生だよ」
「じゃあ、先生同士のディスカッションといきましょうか?」カーヤの言葉にフランツも頷き、二人は補足説明資料の作成に没頭していった。

......

 二人がいるホテルの部屋には小さな窓があり、今は厚手のカーテンで外の冷気をさえぎっていたが、窓の外の棧では、一匹のコウモリがじっと中の様子を伺っていた。


........
to be continued...



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