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青い炎と人形の物語 第9章 魔法の女王 その2 [球体関節人形製作]


「何っ!壊滅させられただと?!」
 ヘルフリート議員は驚きと怒りのあまり、黒い電話機の受話器を掴む指が小刻みに震えた。
 彼こそ、ファシーズ党の最右翼の派閥である『ゲリマンの爪』派の代表であり、かつ、帝国陸軍の少将の地位にもあり、今回視察団が訪問したシュべルトの町にVV親衛隊を送り込んだ張本人でもあった。

『そ、そうです!ヘルフリート少将殿』
 電話の相手は帝国陸軍VV親衛隊の記録員の男であり、こちらの声も電話機の向こう側で震えていた。
『私が双眼鏡で確認した限りでは、隊員達は誰もいない方角に向かって一斉に射撃を行い、その少し後に、、、今度は慌てて銃を乱射し始めて!、、、そればかりか、今度は味方同士で銃を撃ち合い、最後に残った一人はどこかから狙撃されて8名全員が倒されました!』

 VV親衛隊の記録員の報告を聞いたヘルフリートは、電話機と受話器を持ったまま、黒い牛皮のソファーのようなデスクチェアにドカッと倒れこんだ。

「...わかった。ゲーベル中尉。今回のVV親衛隊の任務については極秘であることは分かっているな?、、、親衛隊の家族には軍事訓練の最中の事故死ということで伝えるんだぞ!、、、丁重にお悔やみを申し上げるのを忘れるなよ!」

『わかりました。ヘルフリート少将殿。そのように致します』

 ヘルフリートはその言葉を聞くと受話器をガチャリと電話機に戻し、マホガニー材のデスクの上に置いた。
 彼は驚きと怒りが徐々に収まりつつある中で考え始めた。

(隊員達は一体誰に向かって銃を撃ったんだ?...それとも気でも狂わされたのか?...いずれにしても、魔女どもが巣くう地帯では生半可な攻撃は通用しないということか...ここは、ラッシア国からの軍事進攻が始まったという情報を流して、我ら『ゲリマンの爪』陸軍大隊を派遣するか、、、)

 彼はそうと決めると、すぐさま黒電話の受話器を取り上げ、ダイヤルを回し電話を掛け始めた。

「......ああ、クッシュ中佐。私だヘルフリートだ...うむ...記録員からの報告は聞いたか...よし。それで君に動いてもらいたいのだが...ラッシア国の戦車に偽装した中隊を国境付近に侵攻させるんだ......そうだ。明後日の12日の水曜日にだ...そして、そのままシュべルトの町に侵攻を開始するんだそれを迎え撃つ別の中隊を13日の木曜日に向かわせろ。双方が砲撃するが、狙うのはシュべルトの町の住人だ...いいな。ぬかるなよ......それからだが___一昨日から姿をくらましている帝国陸軍の中にいた鬼人族の軍人だが...その後捜索はどうなった?.....ふむ.....なるほど......一名捕らえたか......なるほど、女の鬼人族かか......とにかく、リーフマン大尉に任せて自白させるんだ......いいな......よろしく頼む」

 ヘルフリートは受話器を戻した電話機をデスクの上に置き、葉巻入れから1本取り出すとソファから立ち上がり、夕暮れが近づいている窓の外の景色を見ながら、ダブルの背広の内ポケットから取り出したゲルトのオイルライターで葉巻に火を点けた。

 フーッと煙を吐き出しつつ、ヘルフリートは思った。
(亜人、異人、移民は排除せねば! 我ら『ゲリマンの爪』に勝利あれだ!)

 そんな男の背後の部屋の中央に立つ薄青く透明な少女の姿があった___。その姿は魔法の力を持った者でなければ見ることはできなかったが____

(!!......!!)
 少女の心は怒りと憎しみに満ち溢れ、精神の身体が震えたが、何とかそれを抑えていた。

(...まだ、あの男と相手の思考の波動が残っている...今なら、まだ辿れる!)

 透明で薄青い少女の精神体は電話機のケーブルに触れると、その姿は一気に掻き消えるようにケーブルに吸い込まれていった。

(__***___**__****__*****___)

 やがて、彼女はヘルフリートが話していた相手であるクッシュ中佐の居る帝国陸軍本部の将官専用の事務室に姿を現した。

 そこには、軍服に身を固めたクッシュ中佐がウォルナット材のデスクに両肘をかけて暗い緑色のデスクチェアに座っており、そのデスクの前には電話で話のあったリーフマン大尉がやはりこちらも軍服姿で立っていた。

「リーフマン大尉。例の捕らえた鬼人族の女の尋問を直ちに始めてくれ」
 デスクの向こうのクッシュ中佐がそう言うと、リーフマン大尉はわずかな薄笑いを浮かべつつ、

「ハッ!中佐殿。直ちに取り掛かります!」
 と返答すると敬礼をして部屋のドアを開いて出て行った。

 黒い革製の鞭で左掌を軽く叩きながら、リーフマン大尉は、はっきりと分かる薄笑いを浮かべながら地下の階に向かうエレベータに向けて歩を進めていた。

 そして、その背後の空中から大尉の後を追う透明な少女の姿があった。
 ___少女の名はマリー__、魔法の女王となるであろう___まだ10歳の少女であった。

...to be continued.


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