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青い炎と人形の物語その4 [球体関節人形製作]

てぃねこ@ハニたろべネコです。
人形作りと、オリジナルの物語の部屋です。

「青い炎と人形の物語」の続きです。
それでは、どうぞ。

第1章 冬のある日(その4)

「ドン!」
重量のあるビンが棚から床に落ちたが、割れはしなかった。
「おぅ、とぉ...大丈夫、大丈夫」
猫のサミーは鼻面でビンを転がし、玄関の扉の横の猫用扉から
外に出し、郵便受けの真下に持ってきた。
その後、苦労して肉叩きハンマーの紐をくわえて引き摺り、
紐を咥えて、懸命に郵便受けの上によじ登り、ハンマーを
ちょうど良い位置に置いた。
「これで、準備はできたぞ。やれやれ」
サミーはそそくさと家の中に戻って行った。
「スージーの受け売りだがね...」猫はつぶやいた。

........

ソリが速度を落とし始めたころ、混濁していたマリーの
意識は少しずつ戻ってきた。
(ここは...どこなの?...)
やがてソリは静かに停止した。
「さぁ、着きましたぜ。マリーお嬢ちゃん」
狼男...いや、もう、ほとんど人間の男の姿形に戻った(?)者は、
マリーを片方の肩に担ぎ上げた格好でソリを降り、城のように大きな白い洋館の入口に向かって歩き始めた。
「は、離して!」
マリーは両手で狼男の肩を押し、抜け出そうとしたが、両足を
がっちりと固められており、びくともしなかった。
「おっと、マリーお嬢ちゃん。今は、逃げないほうが身のためですぜ」
狼男はそう言うと、ニヤリと笑った。
人間の姿であるが、人間離れした獰猛で冷徹な声音に、マリーはとりあえず抵抗をやめた。
狼男が入口の大きな両開きの扉の前に立つと、扉は館の内部に向かって、音もなく開かれた。
マリーと狼男が中に入ると、扉は勝手に閉まり、やや薄暗いエントランスの大広間に、ほのかな橙色のランプが灯った。

物語画像おおかみC.jpg

「良くやりましたね。ダーク、ご苦労様」
やや歳のいった、しかし、高貴な女の声がした。
マリーはゆっくりと狼男の脇に降ろされて正面を向いた。
そこには、白い優雅なドレスに身を包んだ背の高い女が
立っていた。
マリーは思わず息をのんだ。
「マ、ママ?...いえ...あなたはママの何?」
その女は、マリーが4才の時に亡くなった彼女の母親の顔に
そっくりであった...が、その高貴さと冷徹さは、別人のようでもあった。
「驚くのも無理はないでしょうね。ルイーゼは私の妹なのだから」女は言った。
「えっ!?ママにお姉さんがいたの?!」マリーは思わず小さく叫んだ。
「ええそうよ、マリー。私の名前はリーゼ。あなたの伯母ですよ」リーゼという女は答え、そして続けた。
「乱暴なことをして悪かったわ、マリー。ごめんなさいね。でも、こうでもしないと、あなたに会うことができなかったものだから」リーゼは遠くを見るように、やや上を見上げた。
「どういうことなんですか?!」マリーは問い詰めるように尋ねた。
「話が少し長くなるわ。そこのソファーに座ってちょうだい」
リーゼの促しに、とりあえずマリーは左手にあるソファーに
腰を下ろした。
リーゼもその正面に深く腰を下ろした。
目の前には、細長く丸いテーブルがある。
狼男のダークは、元の位置に立ち、微動だにしなかった。
リーゼが指を鳴らすと、若く、しかし精悍な顔立ちのメイドが現れ、二人の前に静かにティーカップを置き、紅茶をそそぐと、また去っていった。
それから、リーゼは語り始めた。

........

リーゼとルイーゼは8才違いの姉妹で、彼女たちの両親が事故で亡くなった後、莫大な遺産により二人だけで暮らしていた。
しかし、ルイーゼが18才のときに、彼女は姉が反対する男、つまりマリーの父親と駆け落ちし、家を飛び出してしまった。
以来、姉と妹は連絡を取ることは無かった。
そしてマリーが産まれ、彼女が4才のときにルイーゼは病で亡くなり、葬儀のときには、離れて参列し、名前を明かさなかった。
その後、リーゼはマリーの父親に、自分が母親がわりになると申し出たが、父親はかたくなに拒んで、マリーをリーゼに合わせないようにしていた。
リーゼは結婚はしておらず、マリーの母親代わりと、莫大な遺産を相続してもらうために、マリーを養子に迎えたいのだという。
また、ルイーゼと駆け落ちした父親フランツは、当時からかなりの額の借金があり、その返済のために遠方まで出稼ぎに出るために、家を空けることが多く、マリーを十分に見守ることができないという現状があり、マリーの将来の幸せを考えて、リーゼは今回の強行手段を用いたのだという。

........

「でも、私は十分幸せです!パパはよく泊まり掛けの仕事に行ってしまうけど、ときどきの休みの日は勉強を見てくれたり、一緒に教会に行ったりもするわ。それに毎日夕方には、お手伝いのアガーテさんも来てくれるの。ときどきお菓子も焼いてくれるし...そうだ!そろそろ夕方だからアガーテさんが来るはずよ!心配するから、急いで帰らなくちゃ!...ならないんです!」マリーは一気に捲し立てた。
「そう慌てなくてもいいのよ。アガーテさんには、私から今夜外泊することを話してあるのだから」リーゼは体を乗り出してマリーを射るように見て言った。
「帰らなくちゃ、帰してください!」マリーは立ち上がり、扉に向かおうとした。
指が2回鳴ると同時に、マリーは狼男に背後から両腕ごと抱きかかえられ、高く持ち上げられた。
「痛い!!」マリーは叫んだ。
「マリーをお部屋に案内して」リーゼは冷たい口調で言った。
「はい、ご主人様」狼男のダークは風のように2階の客間にマリーを運び入れ、ベッドの上に彼女を投げ出した。
いつの間にか、先ほどのメイドも客間に入っていた。
「食事はわたくしが運びます。洗面所は部屋の隅です。それでは、おやすみなさいませ」
マリーがベッドから起き上がるより早く風のように、2人は部屋から出て行った。
ガチャリとドアに鍵がかけられた。
マリーはドアに突進し、ドアを開けようとしたが、もちろん開かなかった。
「あっ!あっ!...あーっ!」
マリーはドアの前で泣き崩れた。

........

to be continued...
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